●CSR でもCSVでもなく“CSI”
先月AFCSR (Asian Forum for Corporate Social Responsibility)の年次会議がミャンマーのネピドーで開催され、参加してきた。
今年のテーマは“Corporate Social Innovation (CSI)”
会議体の名称にCSRはついたままだが、従来からのCSRの枠を越えてより良い将来に向けた新たなモデルをつくろう、といったチャレンジ志向が伺える。
AFCSRはフィリピンのアジア経営大学が中心となって発足したネットワークで、2002年以来マニラの他アジアの各都市で毎年国際会議を開催している。私はこれまで参加したことがなかったのだが、今年はミャンマーで開かれるということで行ってみることにした。
各都市で開催を巡回するのは、それぞれの国でCSR意識を喚起し推進するきっかけをつくるためだ。ミャンマーではCSRがまだまだ理解されていない。先日はマンダレー地区の商工会議所でミャンマー企業を対象にこのテーマのセミナーが開かれたが、講演者に寄せられたコメントは「サステナビリティよりもまず収益を上げることが先決だ」といったものばかりだった。
まだまだ商売ありきの風潮のなかで対応の必要性に気づいてほしい、そんな気持ちで大学の講座を続けているのだが・・。
あれこれ考えるなかでこのAFCSRの会議のことを聞き、背中を押されるような気になった。まだ知らない在ミャンマーの企業の状況や政府の意向を伺う機会になればいい、と。
●ミャンマーのサステナビリティ戦略はこれから
全体会議の前日に、ミャンマーにフォーカスしたセミナーがもたれた。
ここで在ミャンマーのオーストラリア商工会議所が、「共有価値(CSV)を促進するための方針書」を発表した。CSRへの関心がまだ薄いミャンマーだからこそ、外国企業が率先してサステナビリティや責任ある企業行動について模範を示していこうというのだ。CSRやCSVの定義を示しており、寄付や社会貢献とは一線を画すことを解説。ミャンマー語版も同時に発行しており、この国で最初のガイドブックになる。
オーストラリアが率先する背景には、ミャンマーの鉱山で問題になってきた地域の乱開発や劣悪な労働問題に向き合うことで、同国の主力産業である鉱山会社の競争優位を確立しようという意図がみえる。「今はともかく産業振興が第一ですから」といった反応ばかりの日本の産業とは目の付け所が異なる。
オーストラリア以外の欧米企業の現状はというと、まだ目立った動きはなかった。むしろ社会貢献を地道に進める日本企業の方が進んでいる。しかし安心するのは今だけだろう。欧州企業は着々とサステナビリティ戦略を展開しているし、経済制裁を解いた米国企業の参入がこれから始まる。彼らはNGOを軸に地域を積極的に支援していくに違いない。
●NGOの成長機会を後押し
ミャンマー以外のアジア全般の「社会イノベーション」はというと・・。
大企業がCSRのもとに旗を振るプロジェクトよりも、新興国の中堅企業やベンチャーといった意識ある経営者が社会問題にチャレンジしていくビジネスが主流だった。日本でいう草の根の助け合い組織のNPOとはかなり異なり、NGOや市民組織がどんどん経済活動に入っていきビジネスとして成長している。大企業はそれをうまく後押しして発展を見守る。
AFCSR会議の特徴は、優良企業を表彰してトップランナーを輩出していくところにある。
今回最も印象に残った団体が、バングラデシュのNGOであるFriendshipだった。過疎地域の健康・衛生の改善や手工芸者の育成、教育機会を提供する活動なのだが、その代表の女性が非常に意欲的でパワーあふれるリーダーなのだ。
受賞は彼女が精力的に進めた賜物である一方で、表彰時のスピーチでは、
「保健の知識など何もなかった私たちに最初の機会をくれたユニリーバ社にお礼を申し上げたい」
とさりげない一言。BOPビジネスのモデルといわれるユニリーバがバングラデシュでも地道にサポートしてきた成果で、それを自社が語るのではなく支援先のNGOがビジネスで成功し彼らの口から話してもらう。これだけでも企業の評判が高まる。
CSRにはリスク側面と機会側面の両方がある。機会となって価値創造につながるケースについては、受益者である市民やNGOとのパートナーシップを強化し、彼らが自立・発展し発信力も伴っていくことで社会イノベーションが実現。これが企業のビジネスモデルの変革にもつながってくるのだ。