●SDGsの全目標を貫く「パートナーシップ」
SDGsを自社活動と関連づけて取り込もうという動きに対して、自社にとって関係ある課題だけを優先することへの懸念を「第67号SDGsこの一年とこれからすべきこと」で書いた。
NGOからそう指摘されても、なかなか17目標すべてに取り組めるものではない。そこでこれらの目標の関連をみて、立体的につながりあっていることを見るといい。ある主要な課題に取り組むことが他の課題とも関連しており、連鎖的にそれらが解決できると説明できれば、優先指向でありながらも網羅性をカバーできる。
そんななかでも第17目標「パートナーシップ」はこの立体関連構造の中心を貫くようなもので、目標を達成するためのアプローチとして他のどの目標にも関連する。
今回研究会でパーム油を事例として、NGOと企業それぞれの立場からパートナーシップの事例を伺った。NGOから地球・人間環境フォーラムの飯沼佐代子さん、企業から味の素の杉本信幸さんにマレーシアなど東南アジアの生産現場の実状やマルチステークホルダーの協議について話していただいた。
●サステナビリティ意識を強くもつべき食品業界
食品会社は自然資源を原料とすることから、サステナビリティへの意識が強い。
サステナビリティ要素が取引先の要件のなかで重要になっており、対応が不十分であれば取引停止につながりかねない。また機関投資家のESG評価でも重点な指標であり、既に投資引き上げの例もある。一方リスクと考えるばかりでなく、積極的に取り組むことで安定操業を確保するとともに、事業発展へのチャンスにもなり得る。SDGsのなかでは、「持続可能な消費と生産」が特に関係する。
パーム油生産現場の自然破壊や人権問題は、個社単独や最終製品メーカーだけが取り組んでも根本的に問題は解決できない。業界やサプライチェーン全体での取り組みが必要だ。パーム油のマルチステークホルダー協議の団体であるRSPO(Roundtable of sustainable palm oil)がその役割を果たしている。日本ではグローバルな食品会社を目指しサステナビリティに力を入れている味の素が積極的で、他の日本企業に働きかける中心的役割を果たしている。
国内パーム油は80%が食用で占められているのだそうだが、残念ながら日本企業の加盟は洗剤業界が先行しており、食品会社ではまだまだこの認識が足りないという。会社の業務というより杉本さん個人の意識の部分が大きく、「私はエバンジェリスト(伝道師)だ」といって勢力的だ。
●自社で抱え込まずに協力して問題を解決
国連ではSDGs達成に向けて、規模の影響力(Scalable impact)が大きく成果が見える活動を評価している。個々で努力するだけでなく、むしろ連携していくマルチステークホルダーの環境整備を推奨している。
杉本さんはRSPOの国際会議に出るたびに国際レベルでのパートナーシップがいかに大事かを痛感したといい、日本企業にその大事さを力説して回っている。企業の皆さんは、どこかの団体に加入という場合、どんな情報が得られるかどれだけ会社の活動に役立つかといった基準で考えるだろう。マルチステークホルダー協議では、会社のメリットよりも他のステークホルダーと出会い一緒に問題を考える場を提供することが目的なので、そこに来るだけではあまり得るものはないだろう。
知識や情報を得て対応するという受け身のためのグループではなく、学びながらも活動に貢献するというアクションにプライオリティを置いている。そこに加入していけば、自社だけでできない活動をしていけるのだ。これが規模の影響力。一社だけではできないことはあまり自分で抱え込まないで、こうしたところに協同していくことのメリットを社内の経営層にこそ理解してもらいたい。
●認証制度に依存しすぎないこと
ではマルチステークホルダーの成果の方はどうだろうか。
RSPOは製品の認証制度を実施しているので、認証の製品を購入するということで現地農園のサステナビリティに寄与する仕組みだが、そもそも現在既に相当な範囲で森林破壊が進んでおり、これらの修復まではカバーされていない。熱帯地域の乱開発の現状を消費国の利用者に知ってもらう、という広報活動があってのことだ。
RSPOは無秩序な森林開発への警告として環境破壊に重点が置かれて始まった。最近では開発がもたらす地域社会への影響、特に地域住民の生活侵害や農園の労働者の雇用・労働問題へのインパクトに重点が広がっている。それでも、開発地の先住民への人権侵害まで踏み込んで救済が行われた事例は、フィリピンでのケースがあがったくらいでまだまだ少ないということだ。人権については日本ではさらに意識が弱く、苦労しているという。
RSPOに加盟したからといって、農園開発への対応が万全というわけではない。認証品を購入していることに依存しすぎないで、自分たちで東南アジアなど問題が指摘される調達元まで確認に行き、現地の状況を自分のこととしてとらえておくことまで必要になっている。