●欧米主導のESGインデックス
ガバナンス改革に積極的になったGPIFが、ESG投資を開始したと公表。GPIFは企業とのエンゲージメントを先導してきており、ESG投資についても牽引役になると期待される。
ではどんなESG投資をするのか?、と関心持ってみて見ると・・・。
ESGインデックスを用いた運用であり、それが「FTSE Blossom Japan Index」「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」 そして女性活躍に取り組む企業を評価する「MSCI日本株女性活躍指数」の3つだ。
どれも欧米の主要インデックス会社のものなので、ちょっと残念に思った。
日本の年金基金の運用であるからには、日本独自のインデックスを開発できなかったのだろうか?TOPIX やNIKKEIなどのシリーズで策定できそうに思うし、そうしてほしかった。現時点で運用されているESGインデックスのなかから選ぶということなのだろうが、新たなものができればもっと意義が大きいだろうと思う。
私はFTSEのインデックスであるFTSE4Goodがスタートした2001年に、そのインデックス調査を行っていたイギリスの調査会社EIRISからの委託で、日本企業の調査を行った。当時はSRI(社会的責任投資)と呼ばれており、イギリスから欧州全体に拡大し始めた時だった。なかでも私が担当した”Social”のパートは文化や慣行が大きく影響するため、今でも評点がつけづらい分野だ。
最初だったので、ともかく先方の調査アンケートの項目に従って答えてもらうことで始めた。まず質問を見ると、その意図がわかりにくかったり日本的雇用と相容れない労働関係の質問もあって、どう評価するのか戸惑ったものだ。そのなかでも「人権」の項目は、今でこその背景や意図がわかってきたが、当時は差別やセクハラしか思い浮かばず、かなりびっくりした。それでもこれを引き受けたのは、「日本には馴染まない社会分野の評価だが、グローバル市場ではこれが標準になりつつある」という実状を知ってもらうためと考えたからだ。単に質問票を送付するだけでなく、SRIの背景や欧米の事情解説を加えて眼を向けてもらう努力をした。
そんなインデックス調査に対して、日本側では「欧米の価値観の押しつけ」と映った。特に社会の部分は「日本企業はヒトや地域を大事にし、経営倫理をしっかりもった長期経営をしている」ので、こんな調査ではわからないといった具合だった。そこで日本特有のSRIインデックスが国内でいくつか開発され、ファンドも立ち上がっていった。これをずっと続けていれば、GPIFの日本版ESGインデックスも現実的だっただろう。だがSRIは日本で拡大せず、リーマンショックの影響もあって姿を消してしまった。
●ボックスチェックになりがちなESG評価
一方で欧州ではSRIはESGへと変化・発展していき、FTSEインデックスも15年以上を経てその時々の社会課題を取り入れたり評価方法を工夫したりと、随分進化して今に至る。今回採用のFTSE Blossom Japan Indexは、下記の評価基準で構成されている。
・E(気候変動、汚染と資源、生物多様性、水使用、サプライチェーン)
・S(顧客に対する責任、健康と安全、人権と地域社会、労働基準、サプライチェーン)
・G(腐敗防止、企業統治、リスクマネジメント、税の透明性)
このようにESG全般をターゲットとする統合型のインデックスでは項目が多岐にわたり、まんべんなくカバーしているかどうかのボックスチェック式に留まりがちになる。経営者の意向やビジョンを踏まえた会社の特徴などの深堀りした分析は、されていないのだ。その結果、情報開示のテクニックがうまい会社は評点が上がりやすく、数値目標に現れない企業の特徴などは評価できないままだ。
企業側のサステナビリティ情報の開示にあたって、GRIガイドラインを基本としてその指標に従って掲載しているうちに、報告が全般的なデータブックとなってしまい、会社の特性がみえなくなるという問題がある。インデックス方式の評価は、これと同じようなロジックだ。自社ビジネスに関連したマテリアルなサステナビリティ活動こそ、評価していただきたい部分だ。
●日本の課題に向き合った投資を
3つめの社会面のインデックスが、「女性活躍」だけというのもまた残念だ。これも数値による評価が中心なので、事業とこの要素の関連がどこまで分析できるだろうか。
社会面の投資としては、今まさに日本社会で問題になっている「働き方改革インデックス」などができたらいいのだが。やはりMSCIといった外国の会社よりも、日本の会社が日本の課題解決に向きあったインデックスが出来てほしいところだ。
●ESG要素を経営のなかから
ところで、先月の株主総会で大王製紙の社外取締役に就任した。過去大きな問題を起こし、今もその余波で何かとメディアに話題にあがる会社だけにガバナンスが重要になる。
同社は消費財市場に参入しており、現在はこの事業の確立が戦略の柱になっている。消費財ビジネスを強化するためには、女性の戦力化が必須ということで登用に力を入れており、取締役会に女性が入ることもその一環だ。古い体質の製紙業界のなかで、社風を変えていくことは簡単ではないが、女性社員や外国人が働きやすい会社にならなければいくらいい商品があっても将来性はない。
これでESGそれぞれの分野について、経営の中から関わることになる。戦略的ダイバーシティ経営で会社を活性化し、ESG投資の好事例になるよう力添えできればと思っている。