●スマホで決済の電子マネーが急発展
日本では中国経済の話題となるとネガティブな面の報道が目立つが、そんな否定的な面ばかりを見ていては、この国が今どうなっていてこれからどう変化するかを知ることはできない。問題が多い国だが、間違いなくエネルギッシュにそして革新的な展開が進行しており、その現状を過小評価することは危険だ。今もっともパワーが充満しているデジタルエコノミーのことを知らずにこの国の経済は語れない。
最近上海や北京、深?など中国の主要都市を訪れた人は、肌でそれを感じるだろう。私はもう10年くらい行っていないので、ここで書くことは実体験ではなく、世界のトレンドを把握するために日頃から読んでいる海外ニュースや日本でブログ風に語られるレポートの情報がもとになっている。私が購読するEconomistとFTは独自に分析的な論評をしているので、目を通していると今世界で何が重要なのかわかってくるし(日本の報道からみる一般的な理解とかなり異なる)、世界が日本をどう見ているかも伝わってくる(今の日本なぞほとんど目にかけられていない)。
中国のデジタルエコノミー、ともかくスマホの利用率、浸透率が日本どころではなくまさに”隅々まで”なのだ。その最たるものが電子マネーであり、今では日常のあらゆる支払いがスマホによるモバイル決済なのだ。近代的なショッピングモール内の店舗やレストランなどはもちろんのこと、露天市場に出店する八百屋や近所のおばちゃんが運営する屋台など、街のあちこち何でもスマホ払いなのだ。大都市ではほぼ100%キャッシュレスで、もう何ヶ月も現金に触ったことがない・・・という状況だそう。
支払いは、店に提示されているQRコードをかざすだけ。
中国では偽札が横行するので、現金をできるだけなくしたいというインセンティブが大きい。また流通する現金はもみくちゃにされた紙くずの様相で、どうも金銭的価値が感じられない。日本のように現金の信用を確立した仕組みができていないのだ。市場経済を広げるには信用ある決済機構が必須だが、現金経済よりもキャッスレスしかもクレジットカードやデビットカード決済の仲介機能を省き、デジタル技術を使って支払い現場でモバイル決済にしてしまおう、という発想はなるほど理解できる。
●中国独自のネット産業確立
Good ideaとなれば即実行、これを実現してしまうところが今の中国のすごさなのだ。
中国ではGoogleやFBなどアメリカのインターネットプラットフォームを規制している。これだけきくと閉鎖された社会主義国とみえるが、これは逆に中国独自のインターネット産業を確立する自己完結策なのであり、2015年には政府による「互聯網+(インターネット+)」行動計画が発表されている。この戦略が追い風となって、今ではアリババ、テンセント、バイドゥの3社が多様なインターネットサービスを展開している。ECやSNSなど、ネットを利用したサービスは急速に広がっており、その流れにモバイル決済があるのだ。
どのくらい成長したかというと、2016年にはアメリカ1,120億ドル(約13兆円)に対して中国8兆6,000億ドル(約1,000兆円、対前年の4倍)と桁違いでダントツの規模になっている(詳細は”China’s audacious and inventive new generation of entrepreneurs” The Economist, Sep 23rd 2017参照)。世界の先端のイメージがあるアメリカをも、ここまで引き離してしまった。その拡張スピードはまだまだ止まるどころではない。
●世界中から集まるベンチャーキャピタル投資
莫大なデジタル市場を実現させた別のドライバーは、潤沢な投資資金だ。
中国のスタートアップ企業へのベンチャーキャピタルの投資総額は770億ドルだったが(2014-2016)、これは前期の6.4倍である。このなかでもフィンテック(ブロックチェーン関連のほかモバイル決済事業にも多いと推測)のベンチャー企業への投資額は70億ドルであり、アメリカへの投資55億ドルを大幅に上回る世界最大であった。その他にもドローンや自動運転などへのデジタル技術関連への投資が目立ち、これらはアメリカには劣るものの日本を上回る投資額であった。今や中国は世界の投資家にとって”遊園地”になっているのだ。
もはや中国のデジタル産業は、コピーや模造であふれる粗悪産業などではない。世界最先端の技術を次々に生み出し、最新のイノベーションを起こすスポットになっているのだ。中国市場発展のスピードが圧倒的な速さなのである。
その第一の理由は、膨大な市場の拡大可能性だ。人口の多さだけでなく、他地域に比べて同質文化であり伝播しやすい。
第二に中国人はブランド名にこだわらず新しいモノを試してみるという好奇心が旺盛で、新技術や新製品が広がりやすいことがある。電子マネーへの偏見もなく、使ってみて良いとなれば急速に広がる素性があるのだ。無名の零細企業でも新規事業が成功しやすい環境は、日本とは異なるだろう。
第三には、国営企業が担っている基幹産業は非効率、官僚体質で国民の評判がすこぶる悪い。人々は既存の産業や会社に依存するよりも、自分でチャレンジできる自由とやりがいを求めている。ビジネスアイデアと資金調達の機会が目の前に広がり、起業にチャレンジするやる気満々の若者が我こそはと殺到している状況なのだ。
デジタル産業は特にその要素が強い。日本のように社会基盤が確立してしまっていると、今の仕組みが時代遅れになってきても、新しいものを取り入れるにはまず破壊と否定のプロセスが伴う。これまで何もなかった中国だからこそ、一足飛び(leapfrog)に現在の最新の技術やシステムが抵抗なく受け入れられていくのだ。
●AIで世界トップに立つ国家計画
デジタルエコノミーの進展は、既に次のステージに入っている。中国政府は、2030年までに世界のAI産業でトップに立つという計画を今年7月に明らかにしたのだ。
AIの現状は、特許数でみると世界1位のアメリカ15,000に対して2位中国8,000と半分ほどであるが、過去5年間の成長率では米25%、中250%と中国が急速に追い上げている。この勢いと国家計画の後押しを考えれば、AIナンバーワンも達成可能な目標だ。いや、中国は明言した以上、必ず実現する国だ。中国恐るべし。
ちなみに日本は2,200ほどであり、5年間をみてもほとんど横ばいであった。
●中国の底力: 民衆パワー
これまで長く抑圧され続けてきた状況から、一気に弾けるように経済発展する時の人々のエネルギーと活気?これこそが中国の強みだ。
努力すれば昨日より今日、今日よりも明日がよくなるのだ、という空気と実感。その機会があちこちにころがっている勢い。手を伸ばせば夢がかなうのだ。失敗する懸念よりも、やってみてダメならまた別のことにチャレンジすればいいのだ。
国営企業や地方政府の債務問題など、中国経済は不安定で今のバブルは早晩破壊するだろう、と多くのエコノミストらが予測している。こうした中国の負の面は事実だし、中国のバブル崩壊は確かに起こるだろう。しかしその時は世界の景気が悪化する時で、日米欧の先進国経済の方が大打撃を受けるだろう。考えるべきは、経済危機にどう対応し回復の道筋をつくるという次に向けた対策だ。
国の経済が崩壊しても、その国の人々が明日への希望をもって生活を営むエネルギーがある限り、その先景気の後退を跳ね返すだけの復元力がある。凄まじく圧倒される勢いの中国の民衆の活力は、まだまだ無尽蔵だ。これがある限り必ず景気は回復する。今の中国人の動きを見ていると、それだけの底力が十分備わっていると思える。この国は現在の規模で収まるものではなく、10年20年を見据えた発展のポテンシャルがある。
●日本は協調していくべき
心配すべきは我々日本の方なのだ。次に経済危機が起こった場合、どう対応していこう。膨大な国の債務を抱え、高齢化社会で成長機会も乏しく人材の覇気がかすんでいるなか、回復のドライバーは何か・・・
強国となっていく中国とつきあっていくことは大変難しいが、うまくやっていく戦略をとった方がいい。日本が対抗できるような状況ではないのだ。この国のプラス面を見いだし、日本の良さや強みを合わせることでいい将来像を描けるといいのだが。