サステナビリティ倶楽部レポート

[第83号] ESG投資が本格的に広がるために

2018年07月2日

 

●ESGは投資家が扱うサステナビリティ要因
投資コミュニティにESGの考えが浸透することには賛同で、大いに広がってほしい。
ところが今は聞き心地の良さでブームになっており、ESG要素を若干スパイスとして振りかけただけの投資も含まれて、概念の方が先行しているようだ。具体的にESGの何がどう会社に及ぼしているのか、社会の特定要素と財務との関連はどう説明できるのか、といった話にまで進んでいない。

ここで言うのはESGのうちのEとSのサステナビリティ要素だが、それならこれまでCSR活動としてやってきたことを説明すればいいだろう、ということでCSR担当に任せてしまう。しかしこれがボタンのかけ違いだ。CSRを提唱している筆者がそんなことをいうのはけげんと思われるかもしれないが・・・。

ESG投資の担い手はメインストリームの機関投資家で、財務や業績をベースに企業評価や投資判断を行う専門家たちだ。環境問題が深刻化して、ついに投資家までもリターンを投げ出して社会問題の改善に動くようになった・・・のではない。彼らの行動パターンは変わらない。投資家が変わったのではなく、財務や業績に非財務問題特にESG要素が影響するようになってきたので、その要素に着目し筋道を論理立てる必要が出てきたのだ。

●CSRと一線を画す
CSRの取り組みでは、向き合う相手はステークホルダー。財務的な関心には重点をおいていない。だから投資家はCSRという用語を使いたがらず、”ESG”という語を作り出した。あくまでも財務への影響を説明してほしいのであって、社会にとっていいことをやっているなどとは美辞麗句にしか映らない。

私が推奨する「サステナビリティ経営」は、企業としての価値創造つながるサステナビリティ戦略を自社の強みにおき、様々なステークホルダーに対応すべき責任を持った行動を基本的CSRと位置づけている。投資家には戦略部分を明確に示すことが第一。彼らはさらにリスク情報を求めるが、企業にしてみればリスクには自ら触れたくないものだ。今まで出したことがない情報であればなおさらだ。制度化でもされない限り、自発的に投資家に開示することは期待できない。

CSR/サステナビリティ報告書に掲載している「今集めた出せるCSR情報」をできるだけ説明して、投資家にわかってもらおう」などと考えることは、かえって禁物なのだ。ステークホルダー視点からスタートすると事業との関連が説明できない方が多く、この情報はぼやけてしまうのだ。ここで求められるのは投資家視点のESG情報だ。

一方、ESG投資の中でもESGインデックスはかなり広い課題群を扱っているではないか、これもカバーしないといけないし・・・という悩みが聞こえてくる。長期運用を重視する投資家からは、サステナビリティまで配慮しているかといった関心を持たれる、とも言われそうだ。
そんな場合に備えて、ステークホルダー視点にたったサステナビリティ報告書やデータ集のなかで、事業との関わりを説明するよう心がけることで対処できるはずだ。

●投資家のESGへの関心は序の口
ところで会社側でESG情報を説明する準備をしても、投資家から何も質問されない、関心持たれない、という話もよく聞く。
ESG投資とは掛け声ばかり、日本の投資家側がその具体的手法についての知識が不十分でないことが実情だ。ESGを本気で重要な財務要因として的確に対応できる投資家は、日本の中でまだ少ない。投資家への教育がもっと必要、との話が投資家グループから聞かれている。そもそも、「ESG投資家」などというESGだけに特化した投資家がいるのではないのだから。

企業は投資家の質問を待ち受けるのでなく、会社の状況について重点を絞り自信持って話してほしい。富士通ではESG説明会を継続しており、今年は環境特に気候変動を中心にした内容を取り上げている。
事業計画や財務発表の場であるとESGまで質問が及ばないが、テーマを絞って自社事業でのロジックとインパクトを発信すれば、トピックの重要さを伝えられる。投資家を説得していくくらいの気持ちが大事だ。

もっともESG総論はブームなものの、サステナビリティの各論については日本では具体的な盛り上がりがないことの方が問題だ。世界の情勢に日本全体が関心薄くなってしまった、という由々しき事態。脱炭素社会も生態系の配慮も、世界では危機意識にまで高まっているのに、日本では何だか他人事のようで不感症というか対策を叫ぶ世論が弱い。市民による「勢い」があれば、理屈抜きで企業の取り組みが進むはずで、投資も経済を潤滑する血流の役割として変革に拍車がかかるところなのだが。

●ガイドラインに頼らず自社の説明を
そんな中、欧米では着実に財務側からESGに迫るアプローチを進めている。その一つに、2017年6月に発表された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による提言がある。気候に関するリスクと機会、その財務的インパクトを開示する枠組みだ。
またSASBでは10セクターについてサステナビリティ分野のマテリアティティ・マップを作成し、それぞれの項目を発表している。企業と投資家が活用する新たな会計基準としていく方向だ。

このような基準や指標が出されると、その枠組みで開示しなければ、とテクニック論にハマるのが日本企業だ。

統合報告でいえばIIRC。理解を助けるために示されている概念的なモデル図をそのまま開示に当てはめるなど、フレームワークに一番忠実なのが日本企業。作成している担当者がよくわからなくても型式だから、という具合に実に無駄な作業を随分とやっている。

日本では経済産業省が「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス(価値協創ガイダンス)」を昨年発行している。統合思考のためのガイドであって、ESGは非財務要素の中の一つである。ESGやグローバルな社会課題(SDGs等)の戦略への組込み、つまり「ESGインテグレーション」を含む、持続的な企業価値を評価するための枠組みだ。日本企業の形式性をおもんばかってか、「ガイダンスに記載された項目を、その順番通りに、網羅的に開示しなければならない訳ではない」ことがわざわざ注記されているところが、何だか苦笑モノだ。

CSR担当がとりまとめているCSR情報を、経営企画やIR担当また事業部と連携して事業や財務の情報として分析し直し説明して行く・・・。ここができない限り、ESG投資も一過性のスタイルでそのうち陰が潜んでしまう。