●SDGsを日本ほど気にしていない欧米
どこに行ってもSDGsばやりで、この用語はサステナビリティやESG投資、環境問題の現場で欠かせなくなっている。それくらい日本で定着している国連発信のトレンドだ。日本政府が推進を牽引しており、産業界では経団連が中心になって展開。昨年改定した企業行動憲章もSDGs達成を柱としており、トップから推進に力を入れる企業の間では皆さんの胸にはSDGsバッヂが。
日本でこんなに熱心なのだから、この動き世界でも大いに広がっているのだろう、と思う人が多いだろうが・・。
海外に出張される方々が一様に答えるのが、
「SDGs、日本ほど広がってないです。というか、ほとんど耳にしないですね。」
と、かなりの温度差を感じて帰ってくる。
先日弊社で開催した研究会では、ESG評価のリサーチに長年携わってきた日本総合研究所の足達英一郎氏をお招きし、投資家の視点からSDGsを話していただいた。彼も最近欧米の各種会議に参加してきたなかで、同様の反応だった。
どこにそのギャップがあるのだろうか。
●市民を向いていないSDGsウォッシュへの批判
欧米の主要企業では企業にサステナビリティを要請する力が強く、SDGsと改めて言わなくても社会問題やステークホルダーを意識して取り組む活動がもう定着している。SDGsに関わらず自分たちが必要だと判断するサステナビリティ課題を着々とやっていく、ということだろう。会社の活動に国連の枠をはめて押しつけてほしくない、必要なことは自分で判断してやるから、という考えもあるだろう。
今ニュースになっているフランス市民の暴動問題などは、いかに市民社会の声が政治や社会、企業活動に影響してくるかを示すいい例だろう。「いや?日本ではこんな騒動にはならないよね」という状況にいる日本人感覚では、市民パワーとうまくやっていく大事さと難しさが実感できない。
今回のきっかけは燃料税の増税で、その主旨はガソリン車から電気自動車へのシフトの促進、以前から議論されているものだ。これはもう世界の趨勢であるエネルギー施策なのだが、失業であえぐ市民にとって将来のことより目の前の負担の方に反発、炎上してしまう。なかなか理屈通りでは動かないステークホルダーをどうやって説得、協調するのか、それがエンゲージメントの要なのだろう。これはステークホルダー対応の縮図で、世界の直面する状況なのだ。
外からの圧力がマイルドな日本では、SDGsというとビジネスチャンスを見出そう、というプラスの側面の方が強調されている。前向きに取り組むことで「誰一人取り残さない」社会になれる、と。だがこれは一面でしかない。ビジネスが引き起こす社会へのネガティブな影響をおろそかにすべきでない、という「SDGsウォッシュ」の声が寄せられているのだ(OECDのサイト、足達氏より)。これまで散々痛い目にあっている欧米企業はそこを心得ていて、安易にSDGsを吹聴しないのだと思う。
日本のサステナビリティ推進は、ステークホルダーの要請よりも投資家の存在が大きい。それも現在のESG投資は市場への影響を加味した投資家の意向よりも、アベノミクスにビルトインされて展開する政府側の志向が強いという。SDGsも政府主導だし、「企業が市民社会に晒される」という事態なく「いいこと」をしていけばいい、で済んでいないか。これは結果的にグローバルでの競争力をくじくことになり、海外からの信頼が徐々に失われていくことを懸念している。
●「我々の世界を変革する」
SDGsを進めるにしても、自社の現事業活動を17の目標と対応させてアイコンをレポートに掲示して「○○目標をやっています」という紐付けで終わっていては意味がない。最初に取り組む際にはこれでもいいと私も思う。今はもう次のステージで、課題の中から自社が本気で取り組む課題はどれかを選別し、それについて自社事業の中で目標を設定し、新たなアクションを起こしていくことこそが重要なことだ。
そもそも2015年に国連総会でSDGsが決議されたその文書の表題は、「我々の世界を変革する(Transforming our world)」だ。このままでは社会が持続可能でない、という切迫した状況に対応することが大前提にある。社会が成り立たなければ企業も永続できない。社会にいいことをするだけでは足りず、社会を変えていく、それには企業自身がビジネスモデルを変革すべきという基本のメッセージがこの文書に書かれている。
本当に社会を変えて「誰一人取り残さない」つもりで企業が取り組んでいるのか、そこまで考えられなかったらそれはSDGsウォッシュと言われても仕方がないーーこれが欧米の状況ではと思う。
●変化を評価する投資家
ESG投資に絡めたSDGsの話では、投資スタイルを4つのアプローチに分類し、投資家とまとめてとらえがちなところを解説いただいた。
1. コーポレートガバナンスを重視する投資家
2. 社会課題起点のキャッシュフローを重視する投資家
3. ダウンサイドリスク回避を重視する投資家
4. ユニバーサルオーナーシップを重視する投資家
SDGsに関心の高い投資家は、上記の2.が多いという。3.は環境や社会問題を起こしやすい企業のリスク面を取り扱うものだ。これは先にいった、ビジネスチャンスだけでなくネガティブな影響をどう最小化するかにフォーカスするものだ。4. はGPIFのような「普遍的に株式を保有する株主」で、将来のマクロ環境を最も重視する形となり、結果として環境や社会が必然となればそうした要因を盛り込むことになるという。
海外の投資家は、どのように変化をしようとしているか、そこに将来性があるか、という視点で見ており、「変化に対する買い」というマインドが根づいている。そして実践する課題が明確になったたら、あとは具体的に展開できるようにマネジメントに落とし込むこと。投資家にとっては、この成果をKPI評価し、取り組みの実際を「見える化」していくことを求めている。
●ルール形成への参加必要
世界が大きく変革する中で、気候変動などもう避けられない世界の重要課題には、日本はどうもネガティブな考えの方が先立っている。いつまでも反対の立場で粘っていくよりも人類共通の問題とし政策策定やパートナーシップでの連携活動に積極的に参画、主導していくことが得策だ、というスタンスが欧米のやり方だ。パリ協定に否定的なトランプ政権のアメリカでは、産業界が政府をスキップして民間主導でこの課題の枠組み形成をリードしている。
「今までのビジネスのやり方の中」で「やれることをやる」の域のSDGsだけでは、国際的なルール形成で負けてしまう。全く新しいビジネスモデルに変革していく必要性がSDGsの中にいくらもある。自社事業の今後の戦略にSDGsを結びつけ、企業と社会にとってサステナビリティを実現していく発想が大事だ。