サステナビリティ倶楽部レポート

[第92号] サステナビリティ経営 2.0 —ESG投資時代の経営イノベーション

2019年04月2日
 
 
●財務マテリアリティに重点を置く経営へ
昨年度は弊社の研究会でサステナビリティの統合についての分科会を実施し、そこで検討した成果をまとめた。
 「サステナビリティ経営2.0 —ESG投資時代の経営イノベーション」
 https://www.sotech.co.jp/publication/1356
 
ここでは、「経営活動の事業戦略と経営の基盤、ガバナンスのあらゆる事業活動にサステナビリティ要素の機会とリスクの両面を組み込むこと」を提唱しており、これを「サステナビリティ経営 2.0」としている。研究会に参画した4社の企業事例のほか、このコンセプトを実践している内外3社の事例も紹介した。現在多くの企業が行なっているマテリアリティ分析の問題点を示し、今後は「財務マテリアリティ」に重点を置くべきことも述べている。
 
そしてグローバルな資本市場での動きを意識し、長期投資家に向けたサステナビリティの統合と開示を重点にしている。企業はサステナビリティをどう統合していくことが望まれるかも検討し、その方策を示している。
 
Sustainability is a journey, not a destination
サステナビリティ経営2.0を進めていくための具体策や手順などは、まだ議論が必要なところである。このアプローチは目的地に到達するためのものではなく、サステナブルな社会への変革に向けてチャレンジし、そこでまた次のステップを展開する終わりのない旅のプロセスだ。
 
●Business as usual is no longer an option
本プロジェクトを進めてきた問題意識は、「今までのビジネスのやり方」で「社会にいいことをする」という考えを根底から変える必要性に迫れられているということから始まっている。
 
以下は冒頭の緒言から。————
国をあげてのSDGsの推進、グローバル資本市場でのESG投資の拡大など、産業活動にサステナビリティを要請する動きが高まっている。こうした世界の流れの中で、日本の企業や機関投資家は十分取り組みができているだろうか。
 
SDGsには積極的だが、サステナビリティを事業の機会とリスクとして深刻に考えているかというとそこまでいっていない、そんな状況だろう。企業の実践活 動や情報開示や報告のあり方、機関投資家のESG投資への姿勢などで、欧米がリードする世界の状況からみて様々なギャップが見られる。
 
まずは企業活動での欧米と日本企業の行動ギャップだ。欧米でのサステビリティを取り込んだ企業戦略の推進に対し、日本は後塵を拝していることが実状だ。世界経済フォーラムが行っているサステナビリティ企業ランキング100社のうち、欧米が79社を占める一方で日本は8社にとどまり、最高でも73位でしかない。欧米のリーディング企業ではサステナビリティがすでに経営要因の中に組み込まれており、これが企業の競争要因の一つになっていることがこの結果をもたらしている。日本企業がこれだけ遅れをとっている理由の一つは、サステナビリティ要素の財務への影響が十分報告されておらず、資本市場向けの開示がミスマッチなことだろう。
 
二つ目は投資コミュニティでのギャップだ。資本市場でESG投資をリードしている欧米の投資家は、PRIなどの国際的な流れを形成しており、財務面のマテリアリティに基づくサステナビリティ金融の仕組みづくりや制度化を主導している。気候関連の情報開示TCFDに始まり、日本はこうしたルール形成のスキームに追随するばかりである。ESG投資が認識されて広がりだしているとはいえインデックスの活用が中心で、個々の投資判断でのESGインテグレーションにまで至っていない実状である。
 
そもそも経済活動全般の世界情勢の認識において、ギャップが開いてしまっている。欧米よりもむしろ新興国が世界経済を牽引しており、その変動の中にある日本社会そのものがこのダイナミズムを欠いている。サステナビリティ要素はその変革に大きく関与しており、これが20世紀時代のものづくり中心の経済を揺るがしビジネスモデルの革新に迫られている。しかしこの大変革に対する日本の認識が薄くガラパゴス化しており、世界での日本企業の存在価値が徐々に弱体化していることを直視しなければならない。
 
SDGsの本質は、社会に変革を起こすことである。つまり企業自身も「今までのやり方」を問いただし変革に適応していくことだ。世界が変革しこうしたギャップが顕著であるからこそ、企業は今後どのようにサステナビリティを組み込むべきか、日本企業の弱みを克服しつつ持ちうる特徴をどのように押し出していったらいいか、を考えていく必要がある。
 
サステナビリティとは「社会にいいことをする」の域から大きく進展し、今ではビジネスの存続に及ぼす重要な要因になっているのである。そこて?「社会を変えていくビジネスモでルのイノベーションに迫られている」ことを認識し、経営全体でサステナビリティ要素を経営活動に取り込む「サステナビリティ経営 2.0」 を提案している。海外の投資家にも訴求できる経営の軸について、サステナビリティの面から考察する。
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●サステナビリティ経営2.0の特徴と展開
以下は報告書の要旨です。是非報告書本文をお読みください。
 
世の中のグローバル化が進む中で、サステナビリティ課題(環境、社会課題)がますます深刻化し、変革の度合いが著しい。企業はこれまでのビジネスモデルから、「社会を変えていくビジネスモデルのイノベーション」に迫られている。
 
グローバル資本市場では長期投資への関心がもたれ、ESGインテグレーションが焦点になっている。非財務情報開示規制やサステナブルな金融を促す制度化へのドライバーである。サステナビリティ情報についても、投資家向けの財務視点での開示要求が強くなっている。統合報告へのニーズは、財務では表しづらい項目をストーリーで説明していくツールとしての役割が大きい。
 
しかしながら企業側のサステナビリティ情報の開示は、投資家への訴求が十分でない。ステークホルダーの関心に重点を置くこれまでのCSRマテリアリティに対して、投資家を対象とした「財務マテリアリティ」 に重点を移し、財務面に影響するサステナビリティ課題を統合していくことが望まれる。そしてこれを軸にしたマテリアルなサステナビリティ課題を戦略の中に組み込むことが大事だ。
 
そこて?、企業は将来志向と財務マテリアリティでのサステナビリティ要素に重点を置いた「サステナビリティ経営 2.0」に刷新することを提案する。これは、経営活動の事業戦略と経営の基盤、ガバナンスのあらゆる事業活動に、サステナビリティ要素の機会とリスクの両面を組み込んだ経営のイノベーションである。
 
■ 将来のめざす領域の設定 
自社ビジネスに関わる社会変革を認識し、これに向けてどんなサステナビリティ課題に注力するのか、将来の事業をどのような方向に目指していくのか、その「めざす姿」をデザイン「将来志向」でチャレンジ領域を示し事業がこれから向かっていく羅針盤を示すことである。中期経営計画の中にサステナビリティ目標と計画を一体化させリンクさせ、取締役会で積極的に議論し、承認を経るプロセスが求められる。
 
■ サステナビリティ要素の特定と経営への組み込み 
財務マテリアリティを主眼として、サステナビリティ課題の機会(価値創造)とリスク(責任ある活動) の両側面で分析する。機会の側面は、事業を積極的に展開する上でビジネスモデルや戦略の源泉となりうるもので、価値創造プロセスにサステナビリティを内包していくことだ。一方リスク面では、従来のリスクマネジメントの中でサステナビリティ要素を新たな事業リスクとして扱っていくことである。
 
■ KPIと運用
これらの事業戦略を進めるために、KPIを設定する。
KPIは、社内での実践・管理のために成果を計り達成度合いを評価するとともに、社外に対して進捗度を説明する上で重要である。
 
「今までのビジネスのやり方」の中で「やれることをやる」考えではなく、人類共通の問題について、政策策定やパートナーシップでの連携を進めるルール形成に参画することが、結局事業の永続につながると発想を変えることだ。今後を見据えたイノベーションを図る、それが社会価値とともに企業価値を共創するビジネスだ。
 
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 【2019年度 サステナビリティ経営ネットワークのご案内】
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今年度も、創コンサルティング主催「サステナビリティ経営ネットワーク」を開催いたします。
 
サステナビリティとは「社会にいいことをする」の域から大きく進展し、今ではビジネスの存続に及ぼす重要な要因になっています。このことは、「社会を変えていくビジネスモデルのイノベーションに迫られている」のであり、経営全体でサステナビリティ要素を経営活動に取り込む「サステナビリティ経営 2.0」を実践していくことが大事です。これはサステナビリティを軸にした経営のイノベーションです。
 
創コンサルティングの当研究会は、価値創造とリスク対応の双方に着目したサステナビリティ経営について集う研究会です。どうぞご参加ください。
 
・ タイムスケジュール 〔全3.5時間〕
 14:00〜14:30 「ワールドストリーム」  世界の流れを解説(海野みづえ)
 14:30〜17:15 ゲスト・スピーカーによる講演 ? 質疑応答、メンバーによる討議
 17:15〜17:30 メンバー各社のサステナビリティ報告書へのフィードバック     
 
・ 日程とプログラム:
 第1回  6月3日(月)    全体討議   
 第2回  7月18日(木)  投資家による ESG 評価
 第3回  9月5日(木)  非財務情報の開示(TCFDなど)
 第4回  10月10日(木)  サプライチェーンでの人権対応
 第5回  11月21日(木)  ESG情報のレポーティング
 第6回  1月16日(木)  持続可能な開発目標(SDGs)の実践
 第7回  2月20日(木)  価値創造につなげるサステナビリティ戦略
 
 
・ 参加費用:  企業1社あたり200,000円(税込216,000円) 2名様まで参加可
 
※詳細とお申し込み受付は下記サイトをご参照ください。
https://www.sotech.co.jp/csrnetwork