図書館の裏側をしっかり描いたこの映画は、上映時間3時間以上のドキュメンタリー。岩波ホールはいつも社会モノの映画をやっており、今回のこれもなかなか見所あるものでした。
公共といっても運営は民間で、アメリカ官民連携の実状がよくわかります。市は運営費の61%を出しているそうで、でも運営にはタッチせずNPOが作られているのです。日本で公共というとイコールお役所が仕切るやり方なので、まずここが全く違う。
アメリカで重要なことのは、市や寄付者といった資金提供者にValue for moneyを明確にすることで、そこがFund raisingの根本なんですね。この映画も運営幹部のミーティング場面が何度もあり、そこで徹底議論するところが真剣でリアル。蔵書の対象は、ベストセラーなのか歴史的に価値ある書籍にするか、など。
NYというと日本の私たちが持つイメージは、金融ビジネスのトップや高級ブティック、ビッグビジネスを動かす経営者といったハイクラスが多いでしょう。でもこの映画の対象はNYに住む普通の市民生活者。そんな中間層の色々な実情を取り上げているのです。
- 黒人の問題: 現在であっても黒人が実質差別されていることが当事者からの話しで訥々と伝わってくる。黒人専門の研究図書館があり、身を寄せ合って暮らすのではなく「この問題を忘れさせない。」といった気概が満載なのだ。
- 図書館のあり方: デジタル化が進む中で、本を読む人が減っている。そうなれば図書館は不要なのでは・・といった声が聞かれてくる。しかしここでは、
「図書館は本の置き場ではない。図書館とは人なのだ」
「図書館はどんどん進化している。未来に向かっても」
「図書館とは民主主義の柱だ」
と明確な発言をしており、その必要性に納得させられる。
- 知への意欲: 読書会などで、参加する一般市民が積極的に知識を学ぼうという意欲がすごい。地位などに関係なく、誰かにどう思われるかでなく自分の意見を発言し、それをまた周りが聞き入れようという空気がとてもいいね。
- 文化への敬重: 著名な文化人などを呼び、そのレクチャーを聞く市民たち。英語圏の「詩」には本当に表現方法やその背景などに含蓄豊富な文化があるのだなと思う。日本にはこういうのはないが、和歌や俳句が特有な文化なのだろうと改めて思う。
そしてエンディング曲がバッハのゴルトベルク。いい選択だな〜。でもヨーロッパのバロックの重厚さではなくて、軽やかでハイタッチなピアノ演奏を早いリズムで。
そうか、NYなのでグレン・グールドの演奏なんだな。ここでもまた映画に込められた想いに浸りながら、ホールを後にしました。