●「変える」意識の強いNGO
前号の国連フォーラムで、世界では市民社会の勢いが活発なことを書いた。こうした市民の強力なサポートにより、アクションを起こしていくのがNGOだ。
そこでまずNGOとNPOの違いについて。
NGO=Non-Governmental Organizationとは、政府とは独立の立場から政策策定に関与していく組織ということで、活動の目的を重視した呼び方だ。対立の構図ばかりでなく、信頼おけない政府に代わって市民のための公益的な事業活動も展開する。市民の運営といってもアマチュア集団ではなく、高い専門性と市民からの広い信頼を得ていることが特徴だ。”NGO”には市民の側から社会にインパクトをもたらすぞ、という思いが込められている。
一方NPO=Non-Profit Organizationは、組織の形態に目を向けた呼び名だ。その点ではNGOもNPOだ。しかし日本でNPOというと草の根の市民グループを指すことが多く、助け合い互助組織の側面が強い。公的な助成金を得ている場合でも年度ごとのプロジェクトが多く、報告書をまとめて提出したあと活動も終わりというケースが多い。また政策提言を含めることがあっても、政府に対抗するような提案は薄められてしまい、政策につなげる力になることは少ない。
なお、NGOは海外でもよく使うが”NPO”という呼び方は日本的表現で、海外では通用しない。NPOは単に「組織です」というだけで、何も響いてこない。思いのある組織といいたいなら、Civil organizationなどと言った方が伝わってくる。
●環境分野の国際NGO
先日弊社の研究会で、環境保護で活動する国際NGOの3団体が集まり、それぞれの活動の特徴などを話してもらった。グリーンピース、FoE(Friends of the Earth)、CI(Conservation International)の3団体の違いがここで比較することができ、なかなかおもしろかった。
グリーンピースの発端は、アメリカの核実験を止めるためにカナダ市民が動いたことだ。今はオランダが拠点なので、オランダのNGOかと思っていた。完全に独立の立場を貫くため、活動資金は政府や企業からの補助は一切受けておらす、個人の寄付のみに限っている。日本ではサポータは少ないが、ドイツでは58万人の個人寄付者がいるという。
ここは世界中の過激な環境保護運動で有名だ。お話してくれた日本事務局長は大人し目の方で、事前のイメージと違ってちょっとびっくりした。グリーンピースの過激性について聞いてみると、「よくそこまでやるよな」「あんなことまで言ってしまって」「確かにそうかもしれないけど、現実的じゃないよな」などと話題にされ、目を引くことができれば成功なのだという。お行儀よく過ごしていると思っている日常生活の影に、こんな不条理なことが起こっているのですよ、と警告し意識を喚起するわけだ。
目立ったキャンペーンの前には、綿密な調査をする。その分野の科学者など専門家を揃え、問題のある地域で地元の協力を得て、客観的な証拠・証言を集めた分析結果を携える。「そんなバカな」というウラの実態を見せつけるショック療法をとるのだ。
「私たちは問題の所在を気づかせて世の中に示し、切り拓いていく役割なのです。だから企業には、困ったことをされた、重大なリスクだ、と認識されることがいいのです。」と事務局長。
なるほど。過激さは彼らの戦略のツボなんだ。
次にFoEの話を聞く。
こちらは、企業に対して個別に問題を指摘して改善を迫ることもするが、財政的には公的機関や企業からの資金も受け入れている。またグリーンピースがグローバルで活動しているのに対して、FoEは各国拠点の裁量の方が大きいという。
日本関連では、フィリピン在住の日本人スタッフが現地の水質汚染について、日系の鉱山会社に指摘している事例があがった。FoEとして組織的な取り組みというよりも、職員個人の熱意によるところが大きい。
そして3番目のNGOがCI。
こちらは企業へのキャンペーンは行わず、むしろ企業や政府、行政と連携して(資金を得て)プロジェクトを組んでいる。代表自身からは、「他のNGOから『お前らは魂を売ったのか』といわれることもあるが、魂売ってでも環境がよくならいいじゃないか、と考えている。」というスタンスだ。
グリーンピースのように世界レベルでテーマを決めて、それを各支部が展開するという構造ではないが、世界中のスタッフがよく連携しあっており、国境をまたいだメンバー構成でプロジェクトチームを組んでいる。こうやってグローバルでフラットな交流を日常的にやっているので、世界の感覚が共有できる。いかに日本が内向きで、海外から遮断されたなかでの思考に陥っているのかを日々感じているそうだ。
●NGO間の連携
こうしてみると、同じテーマについて活動していても、各々の方針によってNGOのなかで役割分担があることが分かってくる。彼らもそこは理解しあっており、グリーンピースが問題を世間に露出させ世の中の関心を向ける荒野を開拓するアクティビスト型。その後に、問題に気づいた企業や政府とともに具体的な解決策を手がけるCIは、コラボレーション型。FoEはその中間。
両者は対立するのではなく、NGO業界(?)のなかでうまく分業している。そしてその中の人材も、よく移動していてお互いの活動の長所と短所を知り尽くしているのだ。人材の交流はNGO内だけでなく、企業や政府へのスライドも多い。企業側もステークホルダーとの連携の専門家として、彼らの立場を活用している。
日本では、同じ分野で活動している団体がコラボや分担するよりも、主導する人たちの俗人的な食い違いから対立の構図になってしまうことが多い。専門性よりも、個人の思い入れや人間性によるところが大きいからだろう。連携できないところがちょっと残念だ。
●専門能力が高い信頼・支持を生む
専門性については、日本には考えられないくらい群を抜いている。
徹底的に証拠を集める判断力、それを科学的に構成する分析力をもつ人材を集めている。募集するというよりも、それほどのスキルを持った研究者たちが、商業的な機関で働くよりも実際のアクションができるNGOの方を選ぶのだ。
また新興国や途上国の多くは政府が腐敗していて、全く信用されていない。代わって人気があるのがNGOだ。世界の世論調査を行うGallup社の調査では、UNICEFやWHOといった国連機関の次にグリーンピースやWWFといったNGOへの信頼度が高い。それだけ、自分たちの周辺の実態にきちんと向き合おうという姿勢が評価されているのだろう。
科学分野だけでなく、法務面の専門性も抜け目ない。グリーンピースは特定の組織の実態を名指しで暴露するので、訴訟に持ち込まれることも多い。そうされることは彼らの戦略に織り込み済みなのだ。法廷で戦うことをメディアが取り上げれば、注目される。訴訟に勝てばそれがニュースになり、負ければ負けたで「何故こんな事実があるのに認められないのか」とこれまた話題の材料になる。
またNGOのサイトでよく見るのが、企業のロゴをもじってキャンペーンで大々的に広める行為だ。これなど、企業の商標権に触れるだろうと思うのだが、欧米では表現の自由の方が優先され、また問題になる事実を徹底的に調べ上げた証拠でもって反論するので、NGO側の主張が通るのだそうだ。企業を重視することが当然の日本のなかにいると、市民社会の尊重を主とする海外を理解しづらいが、これがグローバルの常識なのだ。
こうしたことができるのは、法務専門家のチームががっちりと組織されており、戦略を練っているからだ。海外の会議に出ると、Lawyerだという活動家によく出会う。Lawyerを日本語では弁護士と訳すが、市民に向いたLawyerは「弁護する人」という訳は不適切だ。自然や社会の側に立った法規制とその施行がなければ市民活動は進まず、法律を自分たちの武器にするために積極的に働きかけていく姿勢がある。科学チームよりも層が厚いくらいであり、ここも日本とは大きく違う国際NGOの実力だ。