サステナビリティ倶楽部レポート

第40号 「集団的自衛権の行使がCSRにもたらす意味合い」

2014年07月9日

 

●平和主義とは表だけ

強引に閣議決定されてしまった。

集団的自衛権が行使されれば、海外の紛争や戦争の場に日本の自衛隊も派遣されることになる。これまでのように軍事力を維持できないアメリカが、その隙間を埋めるために日本を引きこんだシナリオだ・・・。こんな説明が広がっている。

 

日本では米欧は善、中国は悪、という固定イメージが強いのだろうが、もう何年も前から私のアメリカ観は隠然と暴挙を仕掛ける覇権(今は衰退)国家・・・だ。これは、ナオミ・クライン著「ショック・ドクトリン」を読んで決定的になった。世界中で惨事を引き起こし、パニックに陥ったところに資本主義の仮面をつけて付け込む。それも軍産複合体の利益のために。

 

今回の決定も、そんなアメリカの戦略の一環と考えている。あぁ、日本もターゲットになってしまったか・・・。こちらは平和主義の仮面で。

 

●国は海外ビジネスを守ってくれない

そこで、この決定がビジネスに与える影響とは・・。

 

これまで憲法9条のもとに直接の戦闘への参加から免れていた日本なので、企業もわざわざ「戦争に関わる事業はしていません」と説明する必要がなかった。

しかし、この特別に持っていた隠れ蓑をみすみす手放し「(戦争を認める)普通の国」になってしまえば、その言い訳はもう通用しなくなるのだ。「積極的平和主義」などと巧妙ないい方をしたところで、統治もなく混乱極める紛争地域に赴き防衛につくこと自体が戦争の加担になる。

 

従来の経済政策と違い、今度の政府の決定は重大な社会問題を引き起こし、社会の期待を大きく逸脱している。こんな方針を企業が簡単に受け入れ人権侵害に加担する事業を拡大することは、経営への重大なリスクである。ここは各社が独自に判断すべきところだ。

 

「いや大丈夫。武器は売っていません。民生用の○○技術で防衛用に使うモノですから。」

「我が社は紛争地域などには売っていませんよ。売り先は安全な統治国です。」

と答えるかもしれない。しかし泥沼化した紛争地域では、何が防衛で何が戦闘かなど区別がない。また「武器にも使える防衛機器」を買いたい狂気の商人は世界中にはびこっている。日本の大変優れた「防衛」機器が解禁されれば、手に入れるのはどこだって可能だ。まず流出しないようにすべきではないか。

 

こんなところに製品が流れたらどうなる?

懸念すべきは売った後に「武器として使われる可能性」である。政府は誰にどこに売るかしか考えていないが、企業には売った後まで責任が問われ、後々こうした事実が明らかになった時、責められるのは関わった企業なのだ。日本をターゲットにして、故意に戦争に使われる事実を作り上げることなど、紛争地域ではいとも簡単だ。その被害者は企業になる。一旦国外に出てしまえば政府は守ってくれず、自分にかかる火の粉は自社で振り払わなくてはならないのだ。

 

●人権リスクは重大な経営リスク

これほど重大な経営リスクについて、どうもその認識がないようで懸念を抱いている。

武器輸出緩和の政府決定ののち、6月パリで開催された国際防衛・安全保障展示会に日本から始めて13社が出展したという。それをみると、どこもCSRに熱心な企業ばかりだ。

 

これまで政府に頼りすぎた防衛産業には、独立の経営の判断ができないのだろうか。防衛産業は軍需への転用が容易なのだから、意図しない「製品の誤使用」が経営に及ぼすリスクを十分把握しているはずだろうに。これらのCSRは一体どうなっているのか。脇アマなニッポン企業が、軍産複合体の仕組みに組み込まれてしまうのか・・。これを防げるのは、社会への責任を企業が経営の中核に刻みこんでこそではないか。

 

自社が直接紛争に関与していなくても、間接的に関わり加担することは同等の責任を問われる。それでも軍需用に利用されない防衛用だと主張するならば、「関わっていないことを示す」ために販売後を確実に証明できる追跡システムをもち、経営に組み込まれた仕組みをつくって対外的に説明していく必要がある。しかも直接売った相手だけでなく、その先の先まで。

 

これが「人権デュー・ディリジェンス」だ。当然ながら、自社内だけの対応でなく適切な外部機関と連携することになる。そのうえ救済メカニズムももたなければならない。私は、紛争地域にこのような「適切な」機関があるとはとても思えないが・・。

 

●経営への警笛役

集団的自衛権の行使下でのCSR担当の役割は、有事に備えた「炭鉱のカナリヤ」になることだ。政府の方針であっても、それが安全でないどころか社会の規範に外れることを判断し、会社の意思決定に警笛を鳴らす。

 

これまでCSR担当者から、「会社のトップがCSRの必要性を理解してくれない」といわれることがたくさんあった。このような紛争に関わる事態にこそ、経営リスクの観点からCSRを説得するタイミングではないか。

 

これを読んでいる担当者のあなたがやることです。有事にこそCSRが動かなければ、これまでの平時のCSRへの努力が一遍にふっとびますよ。

皆さんの役割を肝に銘じて、しっかりやってくれ!