サステナビリティ倶楽部レポート

第41号 「市場が変わる、会社を変える」

2014年08月26日

 

●資本市場を変える

第37号で責任投資を話題にしたが、その後政府が強力に資本市場改革を進めており、うねりが確実になっている。スチュアードシップ・コードだけでなく、経産省ではコーポレートガバナンスや非財務情報の開示、企業価値の創造等、関連の報告書を次々発表している。さらに厚生労働省のGPIF(公的年金基金)改革、内閣府の有識者会議の開催と、アベノミクスのもとで日本の「資本市場を変える」動きが加速している。

 

スチュアードシップ・コードは、「投資家がもっと企業に対して声を上げよ」というもので、投資先のモニタリング、投資先との対話、議決権の行使、情報開示などを原則として促進することである。既に127機関が受け入れを表明した。その主流は機関投資家だが、今回重要なことは、資金保有者(アセット・オーナー→年金基金など)が動き出したことだ。これまで保有者は運用業績以外に何も言わなかったが、今回GPIFを筆頭に主立った公的年金が署名し、この動きが確実になった。

 

●キーワードはESGとエンゲージメント 

非財務情報の代名詞ともいえるESG要素を、投資家は評価に取り込めということだ。

そのなかでも、リスク情報の部分だ。会社側は、社会や環境リスクへの対応は出来ているか?今後起こる社会・環境リスクをどのようにとらえ、いかに先んじて対応しているか?

 

ところで今でこそ定着してきた“ESG”だが、よく見ればESとGはかなり異なる分野だ。それを融合させた背景は、投資家には“SRI”という用語では関心をひけないことに困ったES推進派が、非財務”の分野にもっていくためにG側を引き込んだことが真相らしい。そんな裏があろうが、環境社会問題の解決に資本市場も動くというなら、このアプローチも効果ありといえるだろう。

 

これまで日本では、投資家と企業はほとんど「対話」や「エンゲージメント」をしていなかった。欧州では、アセットオーナーが運用会社にESGへの対応を求める声が強く、企業へのエンゲージメントが定着している。「ユニバーサルオーナー」という考え方のもと、投資家は地球全体に責任を持つべきで、環境が悪化すれば投資パフォーマンスに跳ね返ってくると考えられている。機関投資家にとってESGはもう必須要因で、やっていなければ選ばれないという。

 

例えば、ノルウェー政府年金基金は、大蔵省がESGスクリーニングの基準を決めている。そのもとでNGOの調査にもとづき、マレーシア熱帯林の違法伐採をしている企業株を売却した。この基金は日本市場にも4兆円を投資しているので、日本企業へのインパクトは大きい。NGOのみならず機関投資家からESGに関して指摘を受けるということは、手遅れに近い重大なケースだといわれている。

 

こうして投資家が目を光らせ、その影響力も大きいので、欧州企業では、ESGに取り組むことで長期保有投資家を惹き付ける効果があると認識している。国内年金基金におけるスチュアードシップ責任でも、ESG評価の効果が出てくることを期待したい。

 

●会社側の経営機構を変える

スチュワードシップ・コードに続き、コーポレートガバナンス(CG)・コードが検討されている。

これに先立ち6月には会社法が改正され、社外取締役の導入が盛り込まれた。義務ではないが、”Comply or explain”(導入するか、そうでなければその理由を説明する)ということで、実質的には課されたといっていい。

これまで日本企業の間では、社外の人間が会社の経営内容がわかるわけがない、と外部人材導入にずっと抵抗感があった。しかしこれも、アベノミクスのもとでぐっと切り替わっている。

 

社外取締役を導入したからといって、すぐにガバナンスが効くわけではない。会社側が機能するように心がけなければ、形を整えるだけで中身が伴わない。それでもこのような外からの力がないと変わらないので、まずは不本意であってもいいから形をつくり、それから充実していくことを期待したい。

 

今年の株主総会から導入企業が増えているが、「とりあえず一人」ではお互い扱いに困るだけだ。

東証一部上場企業の社外取締役に就任した私の経験では、社外役員も内部の重鎮に囲まれた孤軍奮闘の中でなかなか建設的な発言ができるものではない。だんだん消極的になる。過半数までいかなくとも、せめて3人くらいはいないととても機能を果たさない。

 

このくらいの数になると、多様な立場での構成が求められる。

欧州では非財務情報の開示が義務付けられたが、そのガバナンス項目のひとつが「取締役会の多様性」である。社外取締役の導入は当然のことで、それも数が足りていればいいのではなく、様々な異なる人材が関与して会社をチェック&レビューすることが健全であると考えているのだ。

 

●「女性の登用」も変えるドライバー

アベノミクスでは、女性の登用も目玉のひとつだ。

取締役会でも女性比率が問われ始めており、ここでも形からの変化が始まっている。現状管理職候補にも女性社員が足らない状況なのだから、取締役に社内候補が上がるにはまだまだ時間がかかる。そこで社外からの招聘が一番早い道だ。

 

といっても初めての社外取締役に女性を招くのは躊躇するので、二人目以降の候補にあがる。女性の登用は取締役会の人数を増やし多様な機能を持たせる要因になる。

 

「女性の」という枕詞は好きではないが、現状財界トップの顔ぶれは高学歴の男性ばかりだ。ダイナミックに変動している世界のなかで、同質の経営による「シャンシャン」意思決定でいいのかと思う。女性や外国人の登用はその切り込みになる。

 

「女性は頼りない」、「ガイジンに日本の経営はわからない」と思いがちかもしれないが、私の周りで取締役の候補になるような女性をみると、単一色の男社会でそれぞれ独自の努力で切り拓いて来た方々は、なかなかしっかりしていますよ。既存の経営陣にフレッシュな気づきをもたらす効果は、男性より大きいのではないかと思う。私もそうだが、前例がなくいつも独自の判断で行動しているので、会議室の雰囲気に流されることなくしっかり発言する立ち回り方も心得ている。これは組織内の顔色ばかりみて行動するオトコには、なかなかできないことなのです。

 

いずれにしても、市場を変え会社も変わっていくことは必須で、そのためのドライバーは賛成だ。多いに揺さぶられ、変化に適応できるカイシャになってください。