サステナビリティ倶楽部レポート

[第53号] 外国人投資家による日本企業のESG評価

2015年09月25日

 

●日本企業のCSR報告は視点がぼやけている

今月開催した弊社の研究会では、海外の投資家が日本企業のESGをどのように評価しているかをコメントしてもらった。三井住友信託銀行で世界の投資家の日本株への評価に詳しいご担当者と、ESGデータを提供するQUICK ESG研究所それぞれの立場から伺った。

 

同銀行の小森博司さんは、運用機関のなかで世界中の外国人機関投資家の声を継続的にヒアリングしており、彼らの考え方や要望、不満を日本企業に伝え企業のIR活動に役立てる中継役をしている。欧米特に欧州の投資家の行動は、リーマンショックを境に確実に変わったという。そんななかで、日本企業に対してもつ不満や要望を一言でいうと、「日本企業のCSRレポートはpointlessで、誰を対象にして、何を伝えたいのかがわからない」というメッセージだった。

 

ガイドラインの参照に忠実になりすぎると、今度は自社の特徴が見えなくなる。日本内ではそれでいいかもしれないが、レポートは簡単にグローバルでのライバルと比較されるので、オリジナリティを出そうと工夫する欧米と並べると何ともつまらなく映ってしまう。さらに詳しいコメントとして、以下をまとめていただいた。

 

 ・日本企業のCSRレポートは、Eは素晴らしいがGとSがグローバル平均以下、トータルで先進国の中で下位

    →日本企業に対する印象

 ・CSRレポートで、対欧米企業比で記載がない箇所が多い(diversity、従業員待遇、研修、離職率他)

    →グローバル資本市場の現実:比較対象はグローバルでのライバル

 ・質問をしても回答がない、「お答えできません」の返事+英文レポートや英文リリースがないと、顧客や同僚を納得させられるレーティングができない

    →性善説と性悪説の文化のギャップ:開示しないのは隠しているのと同じ

さらに、

 ・CSRレポートだけではわからないことが多く、できればミーティングや電話会議等で直接、説明を聞きたい

    →発行会社から機関投資家へのエンゲージメントのチャンス

 ・統合報告はいくつかの重要項目(KPI)についての要領を得た簡潔な内容で良い   

    →2年目以降のレベルアップ

 

●CSR担当者の素朴な疑問・・・

これを聞いて、CSR担当者の考えそうなことを思い浮かべた。

 

1.CSRレポートはステークホルダー向けなのだから、投資家の意見は意識しなくていいではないか。

 

ヘッジファンドのように数値でしか投資判断をしない投資家ならば、ESGもデータにしか関心を持たないが、長期保有の投資家ならば非財務情報を掘り下げて会社を多角的に見てみたいと考える。まず統合報告で戦略にESGがどう埋め込まれているかをみる。続いて各分野をもっと深く知るための詳細な内容を求めて、CSRレポートにアクセスしてくる。

 

CSRレポートには、データでは表せきれない自社のストーリーを期待している。事業戦略に伴うその社の思い入れやCSRの特徴は何か、と。個々のESG項目のパフォーマンスよりも、人材開発への考え方や社会からの信頼をどう得ようと考えているのか、など企業経営全体でのESGの道筋を知りたいのだ。

 

投資家は会社全体のなかでのESGを「鳥の眼」で俯瞰しており、ステークホルダーは自分の関心ある分野を「虫の眼」で細かく掘り下げて見たい。CSRレポートにはどちらも必要な要件で、長期投資家の視点を意識することで、全体観にもバランスがとれた見方ができるはずだ。

 

2.紙媒体(報告書)とウェブ情報、どっちが必要なのか。

 

日本ではレポートの統合化が進むあまり、CSRレポートの発行をやめてしまうところも多い。ところが、CSR情報がどこにもなくて、これでは困るという声が投資家からも聞かれる。冊子の形でなくてもいいので、ウェブサイトでは紙面に載せきれない詳細な情報を掲載することが必要だ。

 

投資家が通常紙面とウェブどちらを使うかといえば、断然ウェブでの情報収集が中心だ。冊子を取り寄せて読み込むなどはほとんど考えられない。ウェブ上で英語情報が不十分であれば、その範囲でしか評価されない。情報がどこにも開示されていなければ、やっていないととられてしまう。開示をやめてしまうことは大変なマイナスだ。今までやってきたことが水の泡になるとすらいえる。

 

では冊子は不要かといえば、そうではない。

その有用な活用法として、IR説明会やエンゲージメントなど直接投資家に接する場合に手渡す効果が見逃せない。こうした場合は、分厚いCSR詳細レポートよりシンプルな統合報告書がいいだろう。対面のチャンスがある投資家は、会社の理解を得られる貴重な機会で、アナログ的なご縁を大事にするにはアナログの冊子が活躍するものだ。

 

3.サービス会社のESG評価はどうも一律的のようだが・・・。

 

QUICKのようなデータ提供会社の評価レポートやレーティング情報の利用も広がっている。ただ、データベースであると、どうしても豊富な情報量のなかで画一的な項目で評価されてしまう、という懸念が拭えない。実際、ESGでカバーする項目数が幅広いので、開示しているかどうかにとどまりパフォーマンスの評価までは行っていなかった。特定の分野で他団体が評価をしている場合(例えばCDPが実施するカーボン情報)、それを取り入れるなどの工夫をしているが、まだ限られる。

 

こうなると、網羅的に開示していればスコアが高くなる。業種ごとの特徴やさらに会社の特徴などもデータでは表しにくく、質的な情報はだいぶ削がれてしまう。それでも、これはこれで理解しておくことだ。ESGや非財務情報の開示とその評価手法はまだ成熟しておらず、あれこれとのアプローチの段階を前提に、データサービスやレーティングの手法やその限界を知りつつ企業側もうまくやっていくことをお薦めする。

 

こうしたサービス会社の評価がきっかけで、企業との対話やエンゲージメントにつなげているケースもあるのだ。このデータで評価がE(最低ランク)だった会社が、投資家と対話をして取り組んだことによって、DやCに向上したという事例報告もあった。あくまでもツールとして自社のESGをどう改善していくかが第一だということを学んでいただきたい。