●カリフォルニア州法が2012年に施行済み
第60号でイギリス現代奴隷法について触れた。
「サプライチェーン上の奴隷労働」
https://www.sotech.co.jp/csrreport/1017
日本企業の間でもこの法令にどう対応すべきか関心が高まっているが、実は今に始まったことではなく、2012年にアメリカで「カリフォルニア州サプライチェーン透明法」が施行されている。
欧米のサプライチェーン法規制動向については蔵元弁護士がまとめて解説しており、そこに私もアドバイスをしているのでご参照ください。
「『責任あるサプライチェーン』に関する各国の法令の最新動向」
https://www.sotech.co.jp/info/1039
カリフォルニア透明法では、州で操業する一定の事業者に対してサプライチェーンに関する情報の報告を義務付けている。こちらも人身取引や奴隷労働を対象としておりイギリス奴隷法と同様の内容なのだが、日本企業にはほとんど関心がもたれて来なかった。
透明法で要求する開示情報は、1) 検証作業、2) 監査、3) 証明、4) 社内の説明責任・情報開示、5) トレーニングである。イギリス奴隷法よりも項目や内容が特定されているので、両法ともカバーしようという場合には、カリフォルニア法に従っておけばイギリス法にも対応できる一方で、逆の場合には不十分になり得るという。
●日本の対応はほぼ皆無だが・・
カリフォルニアでの操業も多い日本企業が、なぜこれまでこの法令に関心を持たなかったのだろうか。単に「気づかなかった」だけなのだろう。それで何もせずに4年過ぎても日本企業から何か問題があったとは聞かない。だから・・・というわけではないが、今回のイギリス法も9月までに報告しなかったところで、何もお咎めはないだろうと思う。弁護士に正面から聞いたらそうは言わないだろうから、そこは皆さん各自でご判断を。
ではこの法律ができたことで、アメリカ企業はどんな状況に直面しているのか。
「情報を開示する」ことは、市民社会や投資家の目にさらされるということだ。その意図の通り、透明法に基づいて、情報開示が不正確であることを理由にクラスアクションを起こされるケースが多数表れている。流通業のコストコ、チョコレート製造のマースやハーシーなどがあがる。現在のところこれらの訴えは裁判所から却下される程度のものだが、開示した先に何が起こるかを知る事例になる。文字通り、サプライチェーンの実態を「透明にして」見せることが問題を解決していく手段である、という図式がわかってくる。
●中国の囚人労働による製造品の差し押さえ
さらに、他の法律のなかにも労働関連の規定が含まれていることに注目すべきだ。これらが実質的に企業活動に影響しているのだが、このことが日本では見過ごされている。
そのひとつが、本年2月に成立した貿易円滑化・貿易是正法だ。これは、アメリカ国外における強制労働や児童労働によって製造された外国製品の輸入を禁止するものだ。消費者の間では、こうした海外での搾取労働に対する懸念が高まっており、輸入品を精査せよという世論が広がっていることを知っておくべきだ。
この法律を受けて早速5月までに、中国企業ら4社のアメリカへの輸出品が差し押さえられている。中国内での囚人労働による製品だということだ。このうち1社はマレーシア企業で、自社製造ではなく中国企業からステビアを購入し販売しているケースだ。このマレーシア企業はサプライチェーン監査にこれまでも取り組んでいるのだが、名前があがったものだ。この中国企業との取引きはないといっているが、そこの確認調査をしてアメリカ当局に対応中だ。
こちらは透明法と違って、関税当局のチェックに組み込まれていく。上記の例では、おそらく中国囚人労働のブラックリストでもあるのだろう。日本企業もマレーシア企業と同じ立場に置かれているが、現在の対応が不十分であれば対応が厄介になってくる。アブナイ製品を扱っている企業は、監査はもちろんのことサプライチェーンでのデュー・ディリジェンスを回避できない状況まできている。
●その他の法律にも続々
これ以外にもいくつかの法律のなかに、関連の項目が含まれている。
・大統領令: 公共調達の際に不当な労働による製品を購入しないように、という規定
・連邦議会でカリフォルニア州法と同様の法案が審議中
・TPPの関連条項: 労働の章に注意すべき項目が規定
TPPの条項のなかには、不正があった場合の労働者による通報制度の設置、つまり申し立て制度を整備していくことが盛り込まれている。これらが動き出せば、東南アジアにサプライチェーンが広がる日本企業も問題が指摘されることになるだろう。
アメリカ社会では、政府が法律に従っているかをチェックして罰則を科すということではなく、ステークホルダーの監視によって、つまり市民社会の目によって不正が正されるという仕組みなのだ。うまく解決しなければ訴訟を起こされてしまい、政府の顔を見るより訴えられる相手である市民社会に注意を配っていくことがカギになっている。
このようにかなり厳しいアメリカの状況なのだが、日本企業を見ているとほぼ無頓着といった反応。皆さんこれで大丈夫ですか?
●高リスク事業から着手する
欧米各国の法規制があちこちで制定されるとともに、ISOでも規格化の検討がすすんでいる。
「ISO20400 持続可能な調達」として規格案が発表されており、8月から3か月かけて各国が投票を行う。
サプライチェーンでの労務対応について日本企業の関心はこれまで薄く、欧米企業だけでなくその延長にあるアジア企業と比べても出遅れてしまった。「見ないふり」「努力してますs対応」ですませることはもうできない。問題が起きやすい業種や国、操業の場など、リスクの高い事業については、できるだけ早く対応していくことが必須になっている。