サステナビリティ倶楽部レポート

[第66号] 依頼企業にも問われる過酷労働の責任

2016年11月10日

 

大統領選挙はトランプが勝利。私はトランプになる確率はそれなりに高いと思っていたので、事前にブログに書いておいた。
https://www.sotech.co.jp/talk
トランプ支持というより、クリントンとその権力構造には憎悪感に近いものが。新しい米政府のもとで、日本の進む方向を考え直す機会だと考えている。

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●広告を依頼する企業側にも問題
電通社員の過労自殺で、またしても露わになった長時間労働問題。
ワークライフバランスの認識が広がり働き方の意識も変化している一方で、現実には大企業であってもまだまだ改善されない実状だという。

これだけ問題になっても、同社の中には「そうはいっても仕方ないじゃないか」「どこでも多かれ少なかれあることだ」という姿勢がまだみえる。残業時間の上限を引き下げたり、会社からの退館時間を厳重にするなどは、対処療法にすぎない。問題の根本まで掘り下げて対策を取らなければ何も解決しないのだが・・・。

しかし今回のケースはこの会社だけのことでなく、構造の連鎖に目を向けないと原因を根絶できない。問題は広告を依頼してくるクライアント企業の姿勢にもある。これは広告業のサプライチェーンで引き起こされる搾取労働なのだ。

●「クリエイティブ」なだけに成果がわかりにくい
企業の広告宣伝部から過度の要求や無理難題が寄せられる限り、受ける企業側だけでは対処しきれない。現場は「お客様」の要望をできる限り聞くことをよしとするため、なかなかNOといえない。製造業であれば要件が明確に提示できるので、受ける側もそれに従っているか否かで判断基準がもてる。それが広告業では成果物がデザインや企画であって、「どこまでできた」という枠が決めにくい案件も多いだろう。成果への判定がしにくければ、顧客の要請に応じられるまでやり直しが増えることが想像できる。

私もCSR報告書の制作に関わったことがあるが、これでもクライアント側の要請を形にしていくプロセスで相当すり合わせなければならず、非効率や不条理がまかり通っているケースをよく見てきた。スケジュール上のしわ寄せは制作側が埋め合わせることになる。それでも制作会社に対する配慮が伺えれば精神的には助かるが、クライアント側の無理な要請に異論を発せられず、そのまま受け入れざるを得ないことが多いのだ。

●仕事の発注の仕方と受け方をそれぞれが考えるべき
今回の問題は、広告を依頼する企業側の姿勢も問われるべきだ。契約上影響を及ぼす立場にある企業は、コンプライアンス以上に「責任」をもって対応しなければならない。広告業界のサプライチェーン問題として扱うべきだが、依頼する企業に責任を問う声は聞こえてこない。

どうやら制作側がクリエイターとしての独自の成果を出す存在と見られているため、依頼する企業がこれに便乗して「とことんやってもらって当然」という意識ができてしまっているようだ。クリエイターは9時-5時のサラリーマンの枠でやる仕事でないだろうし・・・、などと制作側の労働条件を自分に都合よく解釈していることもあるだろう。制作側も企業に理解してもらうよう働きかけていくことだ。先日元広告会社の社員が、会社の実態をブログに書いていた。
「出口ばかり塞がれても、入り口から流れ込んでくるものを制限しないと溢れ返るではないか。」

●政府も依頼主としての責任を果たす
サプライチェーンの労働問題といえば、途上国や紛争地域の縫製工場や作業現場での搾取労働があがる。先進国ニッポンで、業界を代表する会社員がその末端で同じように酷使されている実状。広告業のバリューチェーンにかかわるあらゆる企業や団体に責任がある。依頼企業の広告宣伝部、それを企画する経営全体が一緒になって問題に目を向け、自分達も加害者であるという意識をもって解決に取り組むことだ。

依頼主には政府や公的機関もある。政府がプロジェクトを依頼するにあたって、入札条件や契約条項に適正な労働を盛り込むことで、政府からも働きかけができるはずだ。
当然ながら、発注側が無理難題な要請を控えることが第一だ。今の政府を見ていると、かなり過酷な要請をしているようなので、彼ら自身が当事者である意識をもたせないといけない。これが守られない場合のために、第三者による内部通報制度を設けて起こった問題に対処する仕組みも必要だ。政府が動くことで、大企業もこれに追随をせざるを得ない環境をつくることだ。

かつて建設業界では談合が当たり前に行われていた。昔からの慣習であり必要悪といわれていた談合も、今ではご法度だ。広告業のサプライチェーン奴隷問題も、ビジネスに関わるあらゆる主体が共通の意識を持って取り組むことで、解決につなげられるはずだ。