サステナビリティ倶楽部レポート

[第67号] SDGs この一年とこれからすべきこと

2016年12月21日

 

●NGOからみるSDGs実施指針の策定
昨年9月に世界の指針として採択され動き出しているSDGs(持続可能な開発目標)。日本でも5月に政府がSDGs推進本部を設立し、本年中にSDGs実施指針を策定する方向で進んでいる。パブリックコメントも終了し、現在は最終まとめをしているところだろうか。ここではマルチステークホルダーで構成する「SDGs推進円卓会議」が組織されて議論が進んでいる。そこで弊社の研究会で、SDGs市民社会ネットワーク代表の稲場雅紀さんにNGOの立場からのお話を伺った。

稲場さんは日本がSDGsを推進するうえでの問題点として以下をあげている。
  ・「地方の視点」をどう入れるか(政府と地方自治体の関係等)
  ・国内課題に正面から向き合えるか
  ・矛盾や財源の問題にどう向き合うか
国際目標であることから各省は「国際担当」を委員に置いているが、国際貢献よりも貧困・格差や地方の持続可能性といった国内の課題に正面から取り組むことだという(実際は国内外の両方とも重要)。政府や産業界だけでなく、市民社会にも推進の役割が問われる。

稲場さんが重要視しているの「アウトサイド・イン」のアプローチだ。将来に向けて目指すべき高い目標を設定し、そこからバックキャスティングして現在からの道筋を見すえていく手法だ。これに対応する現状型のアプローチが「インサイド・アウト」で、今できることから積み上げていくもの。

アウトとインには国の外と内という意味も込められている。アウトサイド・インは、国際的な流れをくんでこれをベースに日本の政策を展開する一方、インサイド・アウトは日本が進めているものを海外に適用するという方向になる。日本政府の考えている方向は後者であり、企業のもつ優れた技術力で世界各国の課題を解決しようということなのだが、結局はODA予算をつけて産業界のプロジェクトを推進するという経済政策の路線とあまり変わらない。SDGsは環境・社会課題を解決することが主題であり、経済成長を前提とする社会を根本的に考え直すチャレンジを促している。アベノミクスの安倍政権はSDGsが成長戦略につなげられると考えて力を注いでいるようで、国際感覚を欠いた経済成長版のSDGs指針になってしまっては残念だ。

策定プロセスについても、官庁主導で事務局がドラフトしその過程で有識者や産業界、市民の意見を徴収するという審議会スタイルを考えていたところを、NGOがマルチステークホルダー・プロセスを強く要請した結果、円卓会議の体制まではもってきたという。しかし半年程度の期間で市民の見解を十分反映するなど期待できないし、市民社会側もこれだけ幅広い課題に関わる様々な団体の意見をまとめるまではできそうにない現状だ。

●企業にとって都合よくSDGsを活用してはならない
稲場さんは、企業の取り組みについても辛口のコメントだ。SDGsは各社にとって都合のよいところだけ取り上げて取り組めばいいというものではない、という。一方企業のSDGs活用のガイドともいえる「SDGsコンパス」では、17すべての目標を目指すのではなく、自社の戦略と照らし合わせて事業にとっての機会とリスクを評価し優先課題を特定することを推奨している。

NGOの主張と産業界の見解にギャップがあるのは当然だ。こういう反応を想定し、会社にとって便利なツールにそのまま従うのではなく、市民社会の視点-社会の課題をどう解決していくか-を忘れずに各自で判断することが大事だ。ガイドの丸呑みで、Cherry picking(つまみ食い)と批判的に見られたのではどうしようもない。

企業経営として優先順位をつけて課題を特定することは必要なことで、批判されるのは企業中心の行動だろう。市民側の立場にたって、対等なパートナーとしてとことんつきあっていくというコミットメントと継続的な実践にまで落とし込まれていれば、十分にサステナブルだ。

また企業には日本国内の視点だけでなく、国際社会の動きに目を配り国際感覚をもっと磨いてもらいたい。世界レベルの大きな潮流をよく知らないために、日本が乗り遅れている事象が多くみられる。
例えば気候変動への対応。日本の産業界は環境問題には早くから取り組み、技術面でも経営面でも取り組みが進んでいると思っているようだが、これが要注意なのだ。パリ協定が発効するなかで日本は批准しておらず、その話題に関心が弱い。世界の産業界は競って気候変動に取り組んでいる。自社内の環境対策は最低限で、国際機関との連携による環境プロジェクトや企業や国が率先して実施協定を発表するなど、かなりプロアクティブなのだ。トランプ政権下の今後のアメリカには懸念材料だが、産業界の推進力は最早後戻りはしない勢いだ。これだけ積極的な流れに、日本からはほとんどアピールがないので存在感もない。

中東やアフリカの紛争が引き起こす移民、難民問題も、重大な社会課題だ。ヨーロッパに大挙して流れてくる難民の問題は一般の市民生活に混乱を生み、企業活動に直接の影響をもたらしている。遠い地域の紛争や人権侵害など関係しないと思っていては、世界のSDGsへの感度が鈍るばかりだ。このようなグローバルに対応すべき課題に対して、政府レベルや企業レベルでのコミットメントが期待されている。

●トランプ政権のサステナビリティへの影響は?
ところで、稲場さんは今後のアメリカ政策に非常に懸念を抱いていた。トランプ氏が環境対策に正面から反対を唱えており、相当な努力をして世界が合意にこぎつけたパリ協定から脱退も示唆している。環境政策だけでなく、その他人権や透明性なども後退しそうだ。さらに国際協力に後ろ向きで、NGOの弱体化も予想されるという。そうなれば、SDGや企業の責任へのプレッシャーが後退する。

SDGsが1国の政策に左右されてはならない。どんな状況でも先を見て進める、2017年以降は世界にそれが試される。