サステナビリティ倶楽部レポート

[第93号] 外国人労働者の採用負担も企業の責任範囲に

2019年04月26日

 

  • 増加する外国人がいずれ日本に来なくなる危機

昨年11月に改正された出入国管理法が、この4月から施行されている。外国人労働者については昨年はじめ頃から問題が取り上げられ、このレポートでも2018年2月に取り上げたところだ。

第79号 外国人労働者受け入れへの意識喚起

 

コンビニや居酒屋の店員が外国人であることはもう日常で、特別な存在ではなくなっている。そんな実態を取材した「コンビニ外国人」の著者、芹澤健介氏のお話を伺った。

 

留学生とはいいながら、日本に学びに来るよりも実質アルバイトを目当てに来日するベトナムや中国、ネパールなどのアジア人の困惑や窮状、金儲け目当ての日本語学校の実態などなど・・。外国人との共生をうまく活用してプラスに切り替えたケースを紹介しているものの、やはり世間への問題提起が主内容だ。

 

この書は昨年の5月に発行されているので、その後に外国人労働者の受け入れ方策が発表されたわけだ。だからといって、ここで書かれた問題が解決するわけではない。むしろ、外国人が増えすぎて治安が悪くなるのでは・・といった心配が俄然多い。

 

しかし芹澤氏が抱いている懸念はもっと先まで考えた見通しで、これが一番胸をついたものだった。

「問題はオリンピックが終わった後に、日本に来る外国人が減っていくだろうということだ。日本はもう彼らにとって魅力的な国に映らなくなっている。外国人に門戸を開けばどんどん来てくれると思っているのは、日本人だけ。それで困るのは私たち日本人なのだ。」

 

  • 外国人の採用費を企業も負担すべき

その問題点とは、1)賃金が他の国より低くなってきた、2)「日本はいい国」といえなくなっている、3)海外で働くまでの費用がかかりすぎる、といったものだ。1)は成長する中国などと比較して、人口縮小化する日本はこれから稼げる国でなくなっている。2)はもっと質的な内容。まず日本語が難しいことが大きな壁で、またお客さんとして接する外国人には優しいが一緒に暮らしていくには共生しにくいという。

 

そして大きな問題が3)海外で働くまでの費用だ。これは主に出身国内の問題で、日本に限ったことではない。ビザ取得が必須なため、本人たちが自力で留学や就労ができるわけではない。渡航を斡旋する業者が介在し、そこで不当な金額の仲介料を請求され、結局借金せざるを得ないことが多いのだ。

 

日本国内で起こる話ではないので、日本人にとっては手がつけられないものと思ってしまう。上記の本でも、「本国で借金をしてくるのは仕方がないこと」でこの既成事実までは問題にしていない。

 

  • 出身国の事情まで責任を持つ

しかし、「現代の奴隷」に厳しい眼を向けこの対策に向き合う欧米のNGOは、送り出し国の仲介料徴収の仕組みを問題視し、その改善を企業側にも要請し始めている。他の国の問題にまで踏み込めないではないか、というのは日本的な発想だ。グローバルなサプライチェーンの問題の発端も、自国の法律や国際法のルールではカバーできない窮状を国際NGOが指摘したことから始まっているのだ。

 

これは、ブローカーが取り立てる一連の仲介・手数料を、移民労働者が負担するのでなく採用する企業が払うように要請するもので、Ethical recruitmentなどと呼ばれている。例えば電子業界の人権侵害を指摘するヨーロッパのNGOであるElectronics Watchでは、「移民労働者の採用費の救済と予防措置についての原則」を2月に発表し、企業にこの原則を採用するように促している。移民労働者に事前の負担があった場合、雇い主は払い戻すという「ゼロ採用費」の原則から始まるものだ。

 

「借金をして海外で働くことは、仕方がない」を放置していては、事態は悪化するばかりだ。日本企業のアジア操業での移民労働者も対象となり、指摘を受けている会社が出ている。日本国内の外国人労働者はまだ対象になっていないものの、同じ事態ではないか。ゼロ負担とは極端だが、出身国での合理的な採用プロセスを明確にして不当な仲介請求をなくしていく、これがグローバルビジネスでの責任ある企業行動の最新課題だ。

 

  • 政府まかせでなく、企業でも意識を

もう「よその国の事情」では済まされない。この状況ならば、ここでいうコンビニ外国人も対象になる。「不当な採用費を企業が負担するとなれば安価な労働費どころではなくなる」これが企業側の本音。

だがこれを見過ごしていてはいずれ日本に外国人は来なくなってしまい、困るのは企業自身だ。こうした構造の解決のためには、企業に負担させるばかりでなく、まず政府が送り出し国の状況にもっと踏み込んだ対策をしなければならない。

 

自社の働き方だけでなく、サプライチェーンでの労働者それも外国人まで含めた「働き方改革」が日本の将来を左右する。