- 縫製工場の“絶望職場”
経営倫理実践研究センター(BERC)で人権リスクについての講座を毎年実施してきており、今年は外国人労働問題を取り上げている。今月はこの問題にずっと取り組んできた指宿昭一弁護士からお話をうかがった。
指宿先生は末端の工場で働く外国人労働者側にたち、この実態を解決するべく動いてきた。なので現場の窮状をよくわかっている。そんな努力がだんだん世間でも注目されるようになっており、中国人実習生の実態を報道した「ガイアの夜明け」でもコメントしている。
「“絶望職場”を今こそ変える!」 2017年12月12日テレビ東京放送
https://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber4/preview_20171212.html
番組では工場とブランド会社どちらも社名を伏せているが、製品のタグでブランドの会社名がジャパンイマジネーション社だとわかり、視聴者のSNSでの投稿から問題が指摘された。これを受けた会社側は取り急ぎ声明文を出したものの、「直接の取引先ではないので法的責任はない」と発表したために、会社の姿勢を問う意見が一気に炎上してしまった。
報道されてもなお「サプライチェーンまで責任をもつ」ことが認識されていなかった。といっても、社長はこれを認識していたが、担当弁護士が法的責任は及ばないと判断したために結局会社としてはそちらを優先して上記のスタンスをとってしまったという。その後の炎上をみてこれではだめだとの考え直し、取引メーカーの工場まで関心を払うべきとの認識に改め謝罪文を発表している。
- 地方の零細現場で起こりやすい搾取
サプライチェーンの先まで責任もつことは言うまでもなく理解されているかと思っていたが、結局大企業ばかりでまだまだ多くの企業が、さらに弁護士に至っても(いやむしろ弁護士の方が)法的責任しかみていないことが実状なのか。法廷で争っているのであれば法律に照らした論拠が第一なので、法的責任を説く弁護士は強い味方だ。だが社会に向けては法律論よりも市民の“一般社会的な”理解が反応のベースなので、法的知識だけで判断せずステークホルダーに対する社会的責任が問われる。CSRは余裕がある大企業だけができるという考えではなく、中小企業こそ自社の信頼に関わってくるものだ。
本件は岐阜県の縫製工場で起こったことだ。問題が起きるのは大都市圏よりも地方の現場に多い。厳しい注文を突き付けられ、これを受けなければ取引を断られてしまう・・、他に仕事を新しく作れるものではないし・・。これがサプライヤーが置かれた厳しい現場だ。
そこで、なかなか取り合ってもらえない末端の現状を改善するには、零細な現場会社よりも取引先のブランド企業にサプライヤーへの責任を問う、これが欧米NGOが取ってきた戦略なのだ。
日本でもようやくこの流れを受けてブランド会社、カジュアル衣料のしまむらが取引先の下請け企業で働いていたミャンマー人技能実習生の人権侵害を確認し、全ての取引先企業に人権侵害がないよう通知を出した(日本経済新聞2018/12)。
- 偽装倒産で過去の問題を不問に
問題が解決しない理由のひとつには、搾取労働が発覚しても経営者はその会社を倒産させることで、これまでの負債や未払い賃金の支払い義務を逃れてしまうという実情がある。同じような別会社をつくり、そこでそのまま事業を続けるという方法。
会社が潰れるとは人生の終焉のように思う方が多いだろうが、難を逃れる有効なテクニカル手段でもあるのだ。かのトランプ大統領も不動産事業でいくつも会社を倒産させ、そのたびにしがらみを一掃させてきたビジネス界の成功者だ。
倒産をうまく使えてしまうのには、法的な抜け穴があることも事実だ。本来は被害者の保護として手を差し伸べる法律のところ、そんな救済策をうまく経営者側が活用してしまえば何の解決にもならない。これも法律をうまく解釈して、侵害を起こした後始末までもみ消してしまうという悪質な行為だ。そしてこれをアドバイスするのも弁護士。倒産で法的責任は放棄できても、社会的責任は問われるべきではないか。
- メディアの力で意識喚起を
この問題がクローズアップされたドライバーには、メディアが取り上げたインパクトが大きい。こうした効果を「“ガイアの夜明け”砲」というそうだ。いや確かに会社に本気でやる気にさせるには、多少なりとも痛い思いをしなければだめだろうと思う。海外企業の経緯をみても、最初は外部から問題をクローズアップされたことで会社の評判が大きく傷つけられたことから始まっている。
欧米では会社を動かすパワーにNGOの存在が大きい。市民社会から支持されているNGO
が問題を暴き、メディアも彼らの活動に協力して報道していく。
日本の場合は市民社会の声は微弱なので、メディアによる力の方に期待がかかるところだ。今回の事例にはじまり、この問題に切り込もうという記者が徐々に広がっておりまたそれを報道にとりあげる局の動きも出来だしているという。またこれまで末端現場の問題としてボトムアップでしか扱われなかったところが、大企業のサプライチェーン責任としてトップダウンの方向から目を向けられている点も大きいという。
日本でいう外国人労働者とは、海外では移民問題として扱われるホットなトピックだ。世界が取り組む大きな問題に、日本のなかでこんな劣悪な実態が放置されていては、「おもてなしの国」を自称するにはとても恥ずかしいではないか。
- そしてまたメディア番組から炎上
・・とここまで書いてきたところ、NHKが外国人技能実習生の実態を取り上げ問題になっている。
「画面の向こうから−」 6月24日放送「ノーナレ」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/4253/2257052/index.html
これは今治タオル製造でのベトナム人実習生の実態に迫るものだ。番組では会社名を伏せていたのだが、これとは違う別の特定の企業(森清タオル・オルネット)の名前がSNSで炎上してしまったため、現在番組にアクセスできないでいる。私は後からゆっくり見ようと思っているうちにシャットダウンされてしまったので、詳細はわからないままなのだが。
岐阜県に続いて実習生問題が大きいのが愛媛県だと聞いていたので、ああやっぱり。ただ、今治タオル全てが悪質のように見られているようだが、問題のある会社は一部なのだろうとは思う。品質にこだわってきた今治タオルファンである私はそう思いたいが、それでもブランド全体に影響することの事態を認識し、そんなことを許してはならないと徹底する態度で臨むことだ。