サステナビリティ倶楽部レポート

[第98号] 気候問題のティッピングポイントを超えているなら・・・

2019年10月11日

 

  • “How dare you! (よく、そんなことが言えますね)”

グレタ・トゥーンベリさんが国連の気候サミットで怒りをぶつけたスピーチは、日本のメディアでも取り上げられて、彼女の存在や主張がようやく知られるようになった。

彼女は昨年8月にスウェーデン議会の前で一人デモを始め、それが世界に広がり、気候変動への行動を迫る大々的な動きになっていた。日本ではこの間ほとんど報道されなかったので、知っている人は環境問題を気にする私のような人間ばかりだった。

 

彼女の存在が知られることはいいが、このスピーチを知ってどれくらいが気候問題の深刻さに気づき、それに向けた行動に動く気持ちになっただろうか。実際には気候問題に向かい合い取り組んでいる世界の実状はあまり伝わらず、国連で起こったひとつのニュース報道に終わっているようだ。

 

素直にメッセージを考えるよりも、

 「世の中をわかっていない子供が、ちょっと理解したように吠えているだけだ」

 「きっと大人にそそのかされているのだろう」

といった彼女をバッシングする反論の勢いが強い。反論までいかずとも、

 「そんなこと言ってもしょうがないじゃないか。」

と本気で取り合わず、考え方や行動を何も変えない/変えられない方がマジョリティだろう。

 

  • これまでの生活/経済活動ができなくなってきた

経済成長の否定を持ち出す環境アクティビストの主張は、そもそものベースが非現実的ではないか、というわけだ。だが、今までのように生活/経済を続けていけない「何かおかしい」実情は誰に聞いても明らかで、もう目をそらすことはできない。海外の報道をみると、このどうしようもない事態を経済の点から議論する姿勢がよくわかる。

 

中でも、英Economist誌の取り上げ方がおもしろい。

世界の政治経済をハイレベルで解説することで定評のある同誌が、気候サミットに合わせて”The climate issue”を特集している。

https://www.economist.com/printedition/2019-09-21

 

政治経済誌が環境問題を経済問題として取り上げ出したのが10年ほど前で、その時の変化にも刺激があったものだ。今回は特集を一部に掲載するのではなく、1冊丸ごと全ての分野での気候問題を扱っている。

 

例えば、前半の世界の地域別の部分では、

 ・アジア: ジャカルタなど主要都市の水没による経済影響

 ・アメリカ: 民主党による気候政策の可能性

 ・ヨーロッパ: ドイツの”脱石炭”対策の困難さ

など。また後半の課題別の部分は、

 ・ビジネス: Climate capitalists 気候対応投資でリターンを

 ・ファイナンス: 保険会社が被る気候被害の甚大さ

と続く。さらに最後の「死亡記事」では、アイスランドの氷河が融けて消えてしまった事態を「葬式」として扱うというイギリス的ブラックユーモアでくくる。

 

同誌がここまで気候問題を扱う背景は、経済への影響が目の前で深刻であることを認めている表れだ。

 

  • この先環境と経済の同時成長はできるのか・・・

グレタさんは、「永遠に続く経済成長というおとぎ話」とさらに厳しい。

ティッピングポイントを超えてしまえば、社会環境問題を解決しつつ経済成長を同時に達成するなどできない。いやもう、その事態まで来てしまっただろうに・・・。

そうなればESG投資もおとぎ話になってしまう。

 

気候変動の主原因が人間社会の温室効果ガス排出だということで、地球規模の影響ばかりが論点と思いがちだが、環境破壊の地域への直接影響にも同時に警笛が鳴らされている。アマゾンの森林伐採・焼失は地域の農業に損害をもたらしているし、ジャカルタの水没も地下水の汲み上げが続いた結果の地盤沈下が被害を大きくしている。

 

人間の存在自体が自然の恵みのなかで生かされており、自然破壊が様々な形でそこの人間活動に影響することは明らかではないか。金融や投資を通さなくても、ごく普通に自然環境を大事にし、それへの畏れを常に念頭におくという素朴な生活が基本だ、という考えに戻らないと・・。

 

今週はグリーンイノベーションサミットが開催され、政府は環境技術開発に多額を用意すると表明した。テクノロジーとビジネスに力を入れることは結構だが、環境問題を政府主導に任せるのではなく、生活者の側がもっと環境へのマインドを培っていく基本を大事にしたいところだ。

 

  • 異常な事態に対応する姿勢が誰にも必要

そんなことを思っているところで観た映画「天気の子」。

3年間雨が降り続いて東京が水没するという設定が作り話だとは思えず、差し迫った現実の問題を扱っていると思った。実際にはこれだけ日が照らなければ作物は育たず、食料不足は必須。生活インフラも今まで通りでいけるのか。下町が浸水するといった程度の被害では済まされない。

 

お話なのでその悲観的な側面はマイルドに抑え、若者のスカッとした明るさで包んで全体は面白いでストーリーで終わる。こうしたファンタジーは映画の得意とするところである一方、新海監督には今起こっている以上に地球環境が変革していることが見えているのだろう。

 

では、どうするのか。

それは皆さん一人ひとりで何が大事かを考えて決め、行動してください。自分で。

 

週末には超大型の台風が関東に上陸する予報です。

皆さん、どうぞ万全な対策で備えてください。