サステナビリティ倶楽部レポート

第8号「最近の世界情勢から」

2011年09月7日

地震と原発問題でなんとも意欲が萎えてしまった日本だが、混とんと低迷は世界の同時現象だ。経済成長が著しい新興国であっても、不安な材料がたくさんある。そんな世界情勢だからこそ、サステナビリティ(=長期での地球持続性)の切り口で解決の糸口を模索すべきことがあちこちで起こっている。

●地球環境問題: 気候変動の猛威

アメリカ東部を襲ったハリケーン・アイリーンは事前の予測ほどひどい被害にはならずにすんだが、ともかく自然の猛威を改めてつきつけた。日本の台風による大雨も、これまでにない甚大な被害だ。 これだけの大雨が地球の大地に降っていながら、別の地域は干ばつに悩まされている。同じアメリカ大陸でもテキサスなど南部は日照りが深刻だ。

中国の内陸部でも水問題の対応に追われている。

 

世界の気候が激しく変動していてその影響を何とかしなければ・・・なのだが、その原因を温室効果ガスの排出による地球温暖化だとする声はすっかり影を潜めている。

福島事故で、原発が温暖化対策のうえでクリーンで有効などという意識が吹っ飛んだことも、この動きに拍車をかけている。 では、今の気候変動をどう説明したらいいのか。

日本だけでなく、アメリカでも地震が起きるなど、地球の地殻変動が著しい。地盤が動いて火山の活動が活発化し、海水の温度が上昇することで台風が起きやすくなっている、といった説がある。彗星が地球に近づくためにその力が働くからだ、などという説もある。

破滅的な予言で眉唾ものも多いけれど、すべて否定できるほどの説明もつかない。

それでも、誰もが同じように感じているのは、 「人間の生活を、このまま将来まで同じようには続けていかれないだろう」現状維持だけでも難しいのに、莫大な人口を抱える貧しい国々の生活レベルが上がれば、その影響は倍増される。 そうなれば、お金を出しても食糧が手に入らなくなってくる。

最近は世界の食糧価格が下がっているが、長期では必ず食糧不足になりそこで価格が暴騰し、各地で暴動が起こるだろう。食糧増産の方策を探るだけでなく、その農法もサステナブルなものを求める必要がある。

 

その時、日本の食糧事情はいったいどうなるのか。自給率40%以下でどうやって保障していくのか。輸入食糧の多くは飼料用穀物なので、肉食をやめて穀物と蔬菜を中心とした昔ながらの食事に切り替えていけばいいかな。

幸い雨は降るので、荒れた農地をまた開拓して農業を見直し、地産地消を奨励すればやっていけそうだ。いくら資産があっても、お金は食べられないことに気づく。環境保全の重要さを実感し、大地を修復する動きになるといいのだが。

●先進国の雇用情勢の不安

イギリスで暴動が広がった。きっかけは小さなことだが、低所得層の間で生活への不安がくすぶっているために、全国にこれが飛び火した。

主力産業を金融に置くイギリスでは、金融業が順調な頃は高所得者から潤沢な税金が入り、それを社会福祉にあててきたが、今はその財源がない。

そこで製造業を復活させ雇用を上げようとするものの、そう簡単にはいかない。

ヨーロッパでは雇用問題をCSRの中核に扱っており、失業者を減らそうという施策がCSR推進のドライバーともなってきた。EUのポリシーにInclusive growth(包含的)という言葉が使われているが、これには効率主導、利益追求の企業からあふれ落ちた人材を見放すのでなく、社会の一員として含める努力をしよう、という意味あいがある。

途上国でのBOPビジネスでも、Inclusive businessという表現をよく聞く。 アメリカは福祉国ではないので、自己責任主義で自助努力が原則だ。オバマ政権は、医療費や社会保障を整備することを約束しているが、これが財政負担の根源だとして突き上げられている。赤字を削減しようとすれば低所得者を直撃せざるを得ない。どちらを取るか悩ましいけれど、国債発行も限界に来ている。

金融業中心の構造は所得格差が大きくなる。経済収縮の被害を受けるのも、どの層にも一律に負担になれば公平感があるが、金持ちは自分の資産をいくらか食いつぶすくらいですみ、弱い者へのダメージが大きい。

ある程度余裕がある中間層は、一時的な不況を乗り切れば何とかなると考えられてきたが、今回は一気に総貧困化すると予想されている。不均衡は是正されないまま、むしろ拡大した社会問題が起こる。

 

この現象は、企業の構造をみれば顕著だ。主要銀行のCEOの年俸は数十億円が当たり前だ。金融危機で業績悪化しても、従業員を大幅に解雇し株価を維持させることに専念すれば、わずか1年で見かけ上の財務回復が可能だ。

根本的に事業を立て直すとなれば、そんな短期間で回復なんてありえないのに、かくして少数の高額所得者と多くの失業者の存在が平然とまかり通る。 大組織のリーダーシップを取ることは重要とはいえ、社員一人ひとりのチカラあっての組織だ。日本企業は現場が強く尊重されているので、ここまで格差はない。日本が「失われた10(20)年」に何も強い変革ができなかったことを嘆かわしく見ている欧米のエコノミストは多いが、上がいなくても企業活動の土台をしっかり支える現場力があることは、欧米とは違うと思う底力だ。

 

●新興国の持続的な成長へのパス

そんな中で世界経済を引っ張るのが新興国。中国、インドと数字でみれば経済成長は順調だ。

それでも、このチャンスにともかく成長を達成せねば、とあまりに急ぎすぎている。成長率が高くても物価上昇がそれと並行しており、インフレの懸念が絶えない。

日本のバブル期と同じような状況だが、これまであまりに生活レベルが抑えられてきた大国では、日に日に豊かになる実感が人々の推進力になっている。

バブル気味であって一度ははじけても、中国全土でみれば経済成長のポテンシャルは大きい。一時的な低迷はすぐに別の地域の発展が埋め、長期トレンドでみると右肩上がりに進んでいくだろう。

そんな中国でも、経済だけが豊かになればいいとは思っていない。中国での環境問題への関心は大きくなっている。

先日も、アップル社に対して、製造委託会社の環境汚染問題が指摘された。この委託会社フォクスコンは、昨年労働問題で大きくクローズアップされたところだ。

アップルだけでなく、日本のエレクトロニクスメーカーも委託しているので、同じ立場に置かされている。

自社製造のビジネスモデルが変わりつつある今日、サプライチェーンのCSR問題対応に神経をとがらせる必要があることを改めて思い知らされている。

 

インドでも特有の動きがある。政府の汚職撲滅を訴えて、社会運動家のアンナ・ハザレ氏がハンガーストライキを実施していた。反汚職法案の厳格化を求める運動はインド全土に拡大し、シン政権を揺るがすまでに発展した。結局法案が議会で受け入れられたので抗議のストは終了されたが、民衆の力を無視できない事態がインドでも起こっている。

●それで日本はどうする

周りをみると不安だらけだが、留まってため息をついているわけにもいかない。グローバルに多様な事態に対応する前向きさと、ローカルで自然や人と共生していく姿勢を、一人ひとりそして企業や社会がもって取り組むことなのだと思っている。