サステナビリティ倶楽部レポート

第20号「中国のCSR」

2012年09月28日

●こんな状況下の北京

CSR Asiaの年次会議が今年は北京で開催された。今回は小セッションのひとつ「災害対応」でスピーカーとして参加。日本企業が事業のなかで震災後の取り組みをどう活かしているかを話してきた。スピーカーで参加するとそこで交流が生まれ、ネットワーキングが充実してくるのを今回も実感した。

CSR Asiaはアジア拠点の組織だが、運営は香港拠点で欧州色が強い。プレゼンする企業も外資系企業が中心で中国の会社特に国営企業は来ていないので、これでもって中国のCSRといはいえないことは注意しておこう。それでも参加者の半数以上が中国人で、中国最新状況の一端は感じることができた。

●自社アピールが強い中国のCSR

企業のプレゼンでは、これだけCSRがしっかりできている、ということをアピールしようという姿勢が強く感じられた。発表する人も、コミュニケーション担当者が多いのではないか。外部でプレゼンする場と割り切っているようにも映った。

プレゼン資料も洗練されていて、カラフルで「魅せる」パワポだ。中国人はイラストや挿絵が好き、と聞いたことがあるが、そういうのが国民的な嗜好かと思いプレゼンのPPTを眺めていた。何枚もスライドを繰ってビジュアルにはわかるが、かえってメッセージがぼやけてくるのは私だけだろうか。

このように、CSRをプラス面で位置づける傾向が多かった。様々な環境・社会問題が噴出している中国のはずなのだが、そのようなことに対応する話はあまり見られなかったのでちょっと残念だった。

企業倫理や腐敗防止といったセッションはなかったし、サプライチェーンの労働問題や人権といった用語は触れてはいけないらしい。プログラムの検討段階から入れられなかったのだろう。

一方で中国に詳しい欧米人の観察は、外部の目として参考になった。長年CSRを研究テーマとし今は中国の大学で教えているというある講演者からは、「中国でCSRとは『いい仕事のやり方をすること(Doing good)』であり、それが結果として社会にもプラスになるという考えだ。

ステークホルダーとの関係を基本とする我々のものとは異なる」という説明があった。なるほど。その点では日本のCSRも中国と同じかもしれない。

しかし中国の場合は、企業が向く先は「政府」であって政府からの指示がCSR推進の起動だという。ステークホルダーからも政府からも圧力がないところで、企業が必要と考えてCSRを進める日本企業はここでも異質かもしれない。

●英語力に磨きをかける若い世代

プレゼンする企業は外資系が多かったこともあり、資料は英語で準備しておりしかもプレゼンする中国人スタッフも英語がとても流暢だ。多くは海外留学組だろうと思うが、日本では経済が成長し企業の海外進出が顕著になっても日本側は生粋の日本人中心主義だった。

留学組を極度に嫌ってきた日本企業は、英語コミュニケーションが苦手なまま今になっている。日本国内の外資系では語学面ではましだっただろうけれど、そういう人たちはあまりビジネスや財界の最前線ではなかった。

中国では若い世代が英語力を磨き、中国のなかでもバイリンガルが活躍する場所が広がっているようだ。

急速な経済成長は外国投資の積極的な誘致がベースにあり、英語ができれば仕事のチャンスも多いので、そうした人材がどんどん育つのだろう。

世界の市場で中国企業のプレゼンスが拡大してあちこちで中国語が聞かれると同時に、中国内の国際化進展も顕著であることがわかる。経済力だけでなく、発言力もついているわけだ。

●中国のCSRは始まったばかり

会議が終わった後には、政府系の研究機関である中国社会科学院の研究者の方々と意見交換。純粋中国のCSR状況を伺った。

ここのCSRセンターは2008年に設立され、中国でのCSRの研究、推進、観察を展開している。研究所で実務をとりしきる鐘先生は中国企業のCSR推進に熱心で、日本でもその研究で滞在していたことがある。

研究の立場から世界で起こっているCSRの動きをきちんと中国に伝え、中国企業に実践してもらうという活動を地道に行っている。

GRIやISO26000などを紹介し、中国企業に使いやすいようにガイダンス書(CASS-CSR 2.0)も作っている。また大学院のMBA向けにCSR課程もつくりその教材としてCSR概論を発行している。さらに中国版の評価基準をつくり、企業の発行するCSR報告書の評価ランキングも発表している。現在中国でも700社が発行しているという。

このランキングは、国営企業、民間企業、外資系企業のパートに分かれていて、外資系での日本企業の評価が気になったのでみてみた。中国語で発行されているものを対象にしているので、日本企業はあまり上位にはランクされていなかった。中国での評判を大事にしたいならば、やはりその言語での報告書は充実しないといけない。

中国企業のマイナス面の話を向けてみると、中国ではCSRが始まったばかりでともかくこれからだ、という。

中国にも確実にこういう推進役がいるのだ。GRI G4草案の話題になった時は、サステナビリティ報告の財務報告への統合があるが、これには強く反対するといっていた。ようやくCSR報告書が広がり出し、ESG情報開示やステークホルダーとのコミュニケーションの重要性をいい始めたところなのだ。

財務報告とまとめてOne reportにという動きは、中国企業に「CSRは財務に付帯するものでいい」と安易に理解されてしまい、CSRへのいい加減な理解(やらなくてもいいじゃないか)が広がってしまうからだという。

●メディアに惑わされない思考力

中国で仕事をするどの人も、政府主導で進めるこの国の問題を理解しており、皆それぞれで対応の仕方を備えている。

今回の会議や個別の意見交換で接する私たちの仕事相手の方々は、大学を出た良識ある教養人だ。こうした方たちは、政府が発するTVの報道や新聞の情報はほどほどにとらえており、各自が電子媒体などの独立の情報源にアクセスしている。あるいは自ら発信することで、この時代この社会で何が起こっているか、そこで政府レベルとは別に自分は何をすべきかを常に考えながら日々過ごしている。単純にプロパガンダに流されて日本を敵視する人たちがマジョリティなのではない。

翻って日本では大手メディアの報道が全てを語っているようにみえ、自分で情報を取捨選択して自分の頭で考えることが弱くなっているようだ。気づかないうちに思考の枠をはめられる、これは日本人への大きな警笛だと思っている。

「自分で考える」ことが重要なことを、中国人と接するなかで大きく感じた出張だった。