サステナビリティ倶楽部レポート

第26号 「循環型経済の実現へのシフト」

2013年05月24日

●株価ばかり先行する経済指標

アベノミクスが好調だ。
株価が上がるという超短期のトレンドだけで、何だか世の中は楽観ムードでいくばくか安堵感がある。いつだってバブルの時はそうだ。地価が高すぎて手が届かない、IT株だけ異様な上昇、と普通に考えれば何だかおかしいのに、その渦中では利殖することに警戒感がなくなるからあまりに単純だ。

実際は第23号「奇異な国とみられているニッポン」で書いたように、異次元とまでいうカンフル緩和策の恩恵なだけで、実質的に経済が上向いたわけではない。日本では異を唱える論調が表に出にくく、世界の株価上昇とあわせていいニュースしか報道しないが、海外メディアでは日本について悲観的な内容の方が多い。「日本国債は数年うちに破綻する」と過激に発言するNYのヘッジファンドもおり、それを主要誌が軒並み報道して話題になっている。

  ・・・と書いているうちに、昨日東京市場が暴落した。今日はいくらか持ち直したところだが、これがどう動くのか、不安定なところだ。

「成長を伴わない経済政策」の処方箋があればいいが、現在の軸では経済が成長することしか解決策がない。

世界中で増大している若者世代の失業についてもしかり。
先進国では、経済成長が鈍って雇用を絞らなければならないなか、どうしても既得権益が優先になるため熟年層の就業が確保され、若い層の採用が狭まる。一方新興国は経済が成長しているが、それ以上に若年層の人口増加率が高く求人が追い
付いていないのだ。このため全世界で失業している若者が増加、その数はアメリカの人口に匹敵しているという。経済学者やエコノミストは、この問題を解決するのは経済成長しかないといっている。

国内の成長が成熟してしまえば海外の発展している市場に進出し、現在の多消費生活の水準を維持するために自然資源をふんだんに使う──今の成長型経済モデルから抜けられない。

●成長しなくても循環することで成り立つはず

しかし、経済は本当に成長し続けなければならないのだろうか?
それは思い込みでしかないのではないか?
成長のために仕事に駆り出され、自分の時間が取れないばかりか健康を害し、あげくには病気を患って死期を早める。様々な開発を優先して環境が破壊されることで、その時は便利になった生活の土台が実は危うくなっている。

私たちは一般人感覚で、経済が成長し続けることが可能ではないことを感じている。これが人間社会の追い求める姿であるはずがない。ならば経済成長を伴わない社会にしていかないといけない。

成長を受け入れないといっても、経済活動や金融をすべて否定するのではない。
金融とはそもそも経済システム全体を循環させるための血液のような機能だ。しかし金銭そのものの多寡に目的が移っていき、それを増やす仕組みとして金融システムが大きな機構になってしまったからおかしくなった。資産は土地や建物など、そこに存在することで人間にとっての価値があるはずで、それをたくさん持ちさらに殖やすことが目的ではなかったはずだ。

金融そのものが資産になって、それが経済指標になったところを変えることだ。利殖のためでなく、社会や生活の潤滑油、交換手段としてだけ金融が機能する「循環型経済」に戻れば問題はなくなる。

このモデルを考えるのは、20世紀型の既得権益にある学者や有識者、専門家ではない。専門の能力は必要だが、今までの権力機構の方たちでなく、市民の動きをより強くしていくことだとますます思う。今世界が置かれている状況を捉える全体感覚の視野と洞察力、新たな方向を設計する能力とそれを実行していく実行力。これらを備えたリーダーポジションにある市民だ。

そしてそれが始められるのは、都会の権力集積地ではなく分散した地方でもある。都会は何でも揃って便利のようだが、それは経済が安定していて何でもおカネを介して品物やサービスが得られる場合だけだ。現金収入がなくなれば、ひどく不安定になる。ひとたび災害が起こればもっとも危うい場所だ。経済成長の軸がはずれれば、自然資源が豊富な地方の方が人間生活に適している。

●大企業向けのアドバイザリーから実践へシフト

これまで私は、経済活動の推進役である企業の行動が一部でも変われば、生活や環境が変わると信じてCSRやサステナビリティ推進に関わってきた。そしてそのインパクトの大きい多国籍大企業に向けて働きかけてきた。この「オールド・エコノミー」は、理屈では賛同してくれても、なかなか思うように行動に移してもらえないので、その実情がっかりすることばかりだった。

そこで、これからは企業社会にこだわり過ぎず、アプローチを多角的にすることにした。大企業の立場になると成長型にならざるを得ず、循環型を理想とするとどうしても自分のなかがねじれる。前者を続けながらも、後者にシフトしていきたい。

まず都会生活の比率を下げ、地方での活動を増やす。これまで主に避暑地としていた八ヶ岳南麓を拠点とし、ここでの地域コミュニティづくりを始めている。「滞在」から「居住」といえるように。目指すのは生活圏内での循環型経済コミュニティをつくることだが、それがどこまでできるかは、どれだけ地域の方々とつながれるかによる。ここにはまだ自信がないし、今の私が無理に完全自給社会に収まる必要もないので、「目指す先」としておく。

私の役割は、これまで都会でやってきた蓄積をベースに地方と都会を結びつけることだ。
手に届くところで食べ物を作っている田舎暮らしを多くの方たちが実感するだけでも意義があるし、そんなところに住んで仕事と両立できるまでいってくれれば万々歳だ。自分だけでなく、それを多くの人が気付き、そちらに動くきっかけづくりをしていくことから始める。

もうひとつが、前号「Emerging Asia Now!」で紹介した、新興国での展開だ。
サイトの新設はその第1ステップで、戦略パートナーのあるバングラデシュから始める。循環型モデルを新たにつくるチャレンジの場として、新興市場はやり甲斐がある。もちろん実現させることは簡単ではないので、私だけが頑張るよりも様々なネットワークとの連携が必須なのだ。それぞれの知恵やリソースを提供しあって取り組むというプロセスが大事だ。事業プランは簡単に書けるが、実践することに課題や障害は非常に多い。それでもやってみようというエネルギーに接することができ、とてもエキサイティングな作業だ。

これまでの弊社のアドバイザリー業務とはかなり違ったアクティビティになるだろう。だから逆に弊社が培ってきた専門的スキルや知識、企業・組織とのネットワークを多いに活かしていきたい。そして何より取り組むヒトの個性やパーソナリティ、思い入れを実現する力が仕事の成否を決める。

そんな若者たちに接することも楽しみのひとつだ。

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*****サステナビリティ経営ネットワークのご案内*****
創コンサルティングでは、企業のCSR担当者が集う「サステナビリティ経営ネットワーク」を本年度も引き続き開催します。今回はアドバイザーをお迎えし、ディスカッションをより充実させたプログラムで展開いたします。
皆様のご参加をお待ち申し上げております。

<プログラム> 全7回シリーズ[初回 5月31日(金)]
 ・第1回 最近のサステナビリティ動向のレビュー
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 ・第3回 サプライチェーンでのCSR
 ・第4回 CSR情報の開示とレポーティング
 ・第5回 紛争鉱物への対応
 ・第6回 アジア新興国でのサステナビリティ
 ・第7回 国内での戦略的コミュニティ活動
<アドバイザー>
 冨田 秀実 氏
 ソニー株式会社にてCSR部発足当初から統括部長を約10年務める。2013年2月より、 ロイド・レジスター・クオリティ・アシュアランス・リミテッド(LRQA)ジャパンに所属。
<参加費用>
 1社あたり21万円(2名まで参加可、税込み)

※お申込みと詳細> https://www.sotech.co.jp/info/578