●グローバルに語られている幅広い人権
昨年度の調査プロジェクトとして、新興国でのビジネスと人権の報告書がこのほど公表された。
http://www.bpfj.jp/act/contents_display/3/23/
この発表にあわせて、先日企業活力研究所とJETROの共催のシンポジウムも開催された。企業側からもたくさんの方々が参加し、このトピックへの関心の強さが伝わってきた。
人権課題については、ISO26000で中核課題のひとつにあがったあたりから日本企業も目を向けるようになり、ラギーフレームとそれに続く国連指導原則の発行によって話題になってきている。ところが、ISO26000の説明では何が課題なのかわからないし、指導原則の日本語訳を読んでもどこまでどのようにやったらいいのかが不明・・・、これが一般的な感想だろう。こうした欧米主導で展開している流れについて、日本で納得いくような解説をしている人が誰もいないので、これを突っ込んで調べ自分の頭で分析したいという好奇心から、プロジェクトを受けることにした。
調査の主目的は、企業がなぜ人権課題に取り組むべきなのか(Why)、そして企業が直面する人権課題にはどんなものがあるのか(What)を知ってもらうことだ。そのために、日本で一般的に認識されている人権にとどまらず、世界で語られている範囲の課題を取り上げ、業種ごとの特徴を説明することで、ビジネスと人権の概観をマッピングした。全く次元が違うと思われる課題(例えば、児童労働と紛争鉱物)でも、人権というコンテクストでいくとこのように並び分類される。
そもそも第24号「『Beyond Compliance』の意味あい」で書いたように、国際社会が取り上げている”Human rights”は「人間として生きるうえでの権利」であり、世界人権宣言で採択された「国際的に認められた人権」すべてが対象であって、かなり幅広い。従業員だけでなくあらゆるステークホルダーにとっての権利なのだ。日本企業の人事部人権担当者の一般認識である、国内従業員のパワハラ、セクハラ、差別問題に限定した人権の認識を修正することから始めないといけない。
ISOのおかげでデュー・ディリジェンスという言葉は広がったが、WhyとWhatを理解せずにHowをやろうとしたところで何も進むわけがない。
●国連フォーラムは総意の場
今回21社を対象に業種ごとの分析をしたが、実際にはこの倍以上の事例をみておりこれでも絞り込んでいる。このなかでインタビューした企業には、どのように取り組んでいるか(How)を国連指導原則と関連づけて聞いてきた。特に昨年12月に国連ジュネーブ事務局で開催された第1回のビジネスと人権フォーラムにも参加して、2日間このコミュニティの雰囲気にしっかり浸かってきたことが大きい。
このフォーラムは、ジョン・ラギー氏の議長指揮のもと、世界各国の主要機関が集いビジネスと人権を推進していく総意の場だ。主要な国際機関、政府機関、NGO、研究者、企業など900人が参加。今後毎年開催される方向である。
ここで重要な役割を果たしているのが、国連機関よりもNGOや民間ネットワークだ。数ある人権NGOのなかでも、「ビジネスと人権」をフォーカスする組織は限られる。このフォーラムで主要スピーカーや進行役を率先して務めることで、この分野のリーダーシップをとろうとしていることがみえる。これらは日本で馴染みのある人権NGOではないので、日本企業は留意が必要だ(ここでの主要NGOは報告書を参照)。彼らの行動をみていると、NGOとはまさにロビイストだということを実感する。
企業側では、先行企業といえども指導原則をどうやって実務に落として展開するかについてはどの社も悩んでおり、これからの課題といったところだ。こうした企業は、ラギー以前から人権課題の重要性を認識しマネジメントに取り組んできたところだ。その点、日本企業もグローバル世界での人権対応の必要性にもう少し目覚めた方がいい。
こういった場の空気を感じ取り、経営に生かしていくことが、グローバル化時代には必須なのだ。完璧に対応できている会社などどこにもないのだから、気後れせずに経験や努力を発表して参加する方がいい。フォーラム自体が、ダイアログの場なのだ。
誤解をそのままにしておくと、後々の摩擦になりかねない。小フォーラムでの質疑応答で、参加者から日本について質問があったことが印象的だった。「日本の弁護士に日本企業の人権対応について尋ねたところ、『問題なく対応できている』といわれた。本当に大丈夫なのか」という質問。これなど、典型的な日本企業の人権への認識違いが表れていると思う。この弁護士は、国内労務だけで新興国での労働や地域を含めた人権対応まで想定していないだろう。国際的な場でこのような認識ギャップが露呈すると、大いなる誤解を生み企業の評判にも関わってくる。
●非欧米から議論に参加することの意義
今回の参加者はほとんど欧米とラテンアメリカ、アフリカであり、アジアからの参加はわずかだった。欧米中心で先行する議論に、アジアからの参画として、日本企業が現場でどんな状況に直面し取り組んでいるかを話していくことはとても重要だ。彼らも欧米だけではこの原則が実践できないことをわかっており、そこに非欧米がうまく入ってほしいと思っている。
そんななか、今回は日立製作所がパネルディスカッションに参加して、社内に人権を理解させることがいかに大変か、自社の経験を話題にしていたことは大きな意味がある。
セミナーの開催や報告書のリリースだけでは限定的なので、これを出版する方向で今内容をまとめ直している。こちらはもう少し読み物的にしたいと思っている。「ヒト」という切り口のCSRリスクが新興国戦略の重大要素であり、これに向き合っていくことが信頼される企業として競争力につながることを伝えていきたい。
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