サステナビリティ倶楽部レポート

第35号 「2014年のサステナビリティ展望」

2014年01月15日

年明け最初の号なので、主要トピックについて今年の動向を考えてみます。

●世界の経済情勢

2013年は株価が好調に上昇し、アベノミクス経済政策への評価が高まった。世界的に株価上昇で景気回復感が広がっており、2014年もこれが継続するという好調な見通しで年を明けているようだ。

 

楽観論はアメリカに多く、2013年のうまくいった部分を前提にしている。

しかし、年初め発表された米雇用統計では雇用の増加が予想の半分以下と大幅に下回り、早くも右肩上がりの見通しにブレーキがかかっている。もう少し見なければわからないが、希望や憶測だけで経済は動かない。

 

また悲観論も多い。英エコノミスト誌の論説では、

「金融危機以来、年初の明るい期待にはことごとく失望させられてきた。今や最大の危険は楽観論そのものにある。」

といって、欧米の失業問題や欧州の個人負債の高さが改善していないことを指摘している。

 

私は楽観論より慎重論だ。

金融市場が好調だといっても、これが経済の実態を反映しているわけではない。金融市況と実態経済は別者なのに、株価の上がり下がりだけで景気の判断をする方がおかしい。実態経済とは雇用や生活の実感で、そもそもこの改善が伴わないのに株価だけ高騰することをバブルというのではないか。バブルは必ず弾ける。日本も過去に手痛い目にあったのに、調子がよくなると跡形もなく忘れてしまうとは・・。

 

●気候変動

ここ数年の異常な気候による人間生活の損害はおびただしい。昨年だけでも、世界各地での夏の酷暑に竜巻や台風の発生や洪水と、大変な現象だ。温暖化が進み、北極圏の氷や永久凍土が溶け出しているため、今まで氷で閉ざされていた海域に入っていけるようになった。圏内の地下に眠っている天然資源目がけて、主要国の争奪戦が始まっている。

 

その一方で、地球は寒冷化しているのではないか、というような寒波。

昨年末の米雇用状況の悪化は、猛寒波のために経済が滞ったためという。天候のせいなので仕方がないのです、といいたげなのだが、これは既に気候変動が人間生活や経済に大きな影響をもたらしている、ということだ。

 

今年もかなりの変動に身構えているべきだろう。自然相手なので、どこで何がと全く予測できないが、気候リスクを前提に災害対策に備えなければならない。

 

●CSV(Creating Shared Value)

サステナビリティ経営の機会面をフォーカスしたCSVが、2013年に広がった。景気が回復して好調だったこととあわせて広がった感がある。CSVは受け入れやすいので、2014年も話題に上るだろう。

 

一方でブームになったものは逆に短命で終わりがちなので、これがあと何年続くのかと思ってしまう。欧米では”CSV” という用語では広がっておらず、いかにも日本のなかだけの流行なので。そもそもCSVはネスレの戦略でつくりだした用語であり、ポーターがこれを一般化したものだ。汎用化されたCSVより、Shared ValueやValue Creationというコンセプトを経営に取り込むことが大事なのだが。CSVについては、昨年書いたブログも参照ください。

https://www.sotech.co.jp/talk/622

 

「CSVはCSRの発展形だから、CSRという古いものを差し替えよう」などと単純に考えないでいただきたい。アメリカのなかでも別の切り口で「企業の責任」、つまり”Corporate Responsibility to Respect Human Rights”が進んでいることも忘れてはいけない。”CSR”という言い方はしないが、着実に法制度化が進行していてグローバルな事業活動の縛りになっている。

 

●ビジネスと人権

国連指導原則が各所に取り入れられており、実質ボランタリーではなくなりつつある。紛争鉱物の規制のように、ある時日本企業もいきなり制度枠に組み入れられる事態に直面しそうだ。

 

2013年は指導原則を実践するにあたっての実務家向けの手引きがいくつか出された。企業にとっては「どうやって進めたらいいのか?」の疑問に応えるガイドとして、手助けになる。しかし一方で、こうしたガイドを率先して開発するのはアングロ・サクソン系で、着々と彼らの主導でフレームが練り込められている。

 

2014年は、地域や国レベルでの様々な法規制に指導原則を取り入れる動きが進む。日本からも法体系の策定に入ろうと思えばいくらでも場はあるのに、それが理解されていない。あるいは、政府が動くべきで民間でやることではない、などと「誰か頼み」をしているうちにレールはどんどん敷かれ、その上を転がっていくしかないというToo late状態になってしまう。日本的な狭い人権の殻を破って「国際的に認められた人権」への感度を高めていき、海外操業での問題に結び付けていく必要がある。

 

●統合報告

アニュアル・レポート表彰制度のなかで、統合版部門ができつつあり、2014年には統合報告を作成していく企業がもっと増えるだろう。企業よりも、レポート制作会社や監査法人、IR支援会社といった商売側が競っているので、営業されて企業側もやらなければ・・と背中を押される方が多いのが実情だが。

 

統合報告の形態や内容には、まだ試行錯誤で固まったものはできてこない。統合報告元年の会社にとっては、まず冊子をどうしようか、から意識が向くだろうが、重要なことは1)企業情報がどのように体系化しているか、2)企業の特徴や思い入れがどこにあり、それをどのように伝えようとしているか、にある。さらにいうと、1年ごとに冊子を完成させ毎年入れ替えることよりも、会社の戦略やそのパフォーマンスを継続してどう伝えるかを考えるべきだと思っている。

 

また統合報告に限らず、企業活動の報告や情報の開示を海外にどう効果的に訴求していくか、もっと根本的に考え直すべきでもある。報告書やウェブサイトは、誰もがアクセスしてくるもので、英語でのコミュニケーションが乏しいとそれだけで評価が下がる。海外での事業活動に力を入れている会社でも、日本語でつくったものを英語にしてアップというところが多い。海外で読まれるサイトやレポート制作には、コンテンツ設計の段階で海外拠点の現地スタッフもチームに入れることが必要だろう。制作支援アドバイスも、日本ではなく海外のプロに頼むなどを考えてはどうか。