サステナビリティ倶楽部レポート

第42号 「NGOと企業のエンゲージメント」

2014年09月25日

 

● 企業との創造的対立

昨年弊社で開催する研究会で主要な国際NGOの活動を聞く会合を行ったところ、普段コンタクトのない団体の活動が聞けたと好評だった(第34号「国際NGOの専門性と連携」)。そこで今年はこれをさらに進め、企業とのエンゲージメントについて、具体例を踏まえてディスカッションした。

 

対話の相手は、グリーンピースとオックスファム。

グリーンピースは昨年も来てもらい自己紹介は済んでいるので、今度は企業との「創造的対立」についてさらに話してもらう。問題を正面から指摘し、それに企業も関わっていることを認識してもらうことが第一歩だという。日本でのキャンペーン実績もいくつかある。大きな成功例は、ユニクロへのデトックスキャンペーン(衣料品製造での有害化学物質の使用ゼロを訴える)で、同社は2013年にゼロ実現に向けてコミットした。

 

今力を入れているのが「持続可能な水産業」だ。魚消費が多い日本だからこそ取り組むべきだが、関心が薄い。大手スーパーマーケットで実態調査を行い、魚の調達方針を持ってもらうよう働きかけている。大手5社は、方針の必要性を認識して取り組んでいるという。

 

ところで、今やニホンウナギは「トキ」と同じ絶滅危惧種なのに、これまでと何も変わらずスーパーでは目玉商品で販売されているとはどういうことか・・。日本の伝統的な食文化とはいえ、絶滅させないよう食べる側一人ひとりがもっと保全の意識をもたなければ、と思うが。

 

「グリーンピースは過激」という印象が大半だろう。ところが、消費者の意識がアクションにつながる海外ではこのようなNGOの指摘に耳を傾けないと致命的になる。大きな騒ぎになり注目の的となってからの後追い対応では、企業の評判がガタ落ちで、その先の対策が大変面倒になるのだ。どうせ席に着くならば、早く座った方がいい。「対立」は決して攻撃ではなく、企業経営にとっても重要なことをわからせるための手段になっている。

 

● 貧困削減に向けて、企業と協働

オックスファムは、世界の飢餓や貧困削減を目指して設立されたイギリス発のNGOだ。取り組むテーマが食や衛生など、人道・開発支援なので、先進国の行動による途上国へのしわ寄せを解決するために現地で具体的な活動をしている。

 

企業に対しては対立姿勢ばかりでなく協働歩調もとっている。日本での事例はこれからで、海外では途上国の土地収奪に関連する個別企業へのキャンペーンや、官民連携プロジェクト(PPP: Public Private Partnership)での人権侵害の調査などを実施している。政府が関与するプロジェクトならば政府基準に従っていれば安心と思いがちだが、現地の住民を無視した計画や利権が絡んだ事業がはびこっているのが現状だ。そこに切り込んでいくのがNGOの役割でもある。

 

また、企業とパートナーシップを組んで貧困削減に一緒に取り組むことも行っている。さらに企業からの依頼で、海外進出時に現地のステークホルダーの調査などを受けることもあり、こうした活動は事業へのコンサルティングに近くなる。商業的なサービス機関では持ち得ない世界各地で築いたネットワークがここで発揮されるので、日本企業も事業展開の良きパートナーと考えてほしい。

 

● 市民組織は企業の強い味方

日本ではNGOのチカラが弱く、企業にとってもあまり強いインパクトがもたらせない。NGOは市民からのサポートの総和ともいえ、NGOが弱いことは寄付額が格段に少ないことに表れている。宗教的に寄付文化がないといわれるが、NGOに魅力的な提案をし続けるなど、成果の示す努力が足りないのでは、とNGO側からの反省意見もあった。一方企業側でも、寄付は国連の関連機関にしておけばいい・・という傾向があることも課題だ。

 

NGOの存在は、欧米では不可欠である。

欧州では、政府自身がカウンターパートとしての市民組織を重視している。特に政策策定のプロセスにおいて、政府だけで決めるのでなく必ずNGOが関与する。このようにして市民の声を反映させることが健全であると考えており、あえて政府の提案に反対する立場をテーブルにつかせる。そこで、主要な団体には政府からの資金が回る仕組みがある。NGOの財政基盤となり安定した継続的な活動ができるとともに、資金の透明性が要求される。

 

米国では公的な資金は流れないが、財団がいくつもあってこれらがNGOを財政的に支えている。フォード財団、ビルゲイツ財団・・・と、事業で成功した財産を市民活動に回すことをよしとする文化だ。

 

欧米ばかりではない。新興国でのNGOの存在感の大きさのお話もあった。

韓国ではグリーンピースの会員が激増しているという。他のアジア各国でも、NGOを活動の軸にする環境活動や人権団体は多い。市民からの支持があるからできることで、それ以外政府や公的基金もNGOの経営資金として流れている。こうした国々では、政府にガバナンスがなく信用できない存在なので、民間機関への信頼度が格段に高い。欧米主導の国際NGOの出先だけでなく、現地設立の組織も育っている。

 

日本企業の多くが日本国内の意識の延長でグローバル展開しているが、こうした市民組織の威力をよく知らないことが多い。また、「日本企業は現地の社員や地域にきちんと貢献しているので、問題ない」という先入観がありすぎる。確かに社会貢献活動の意識は根にあるが、日本人社員の駐在が絞られ、国際競争にさらされている今日、意識をもっていてもやりきれていないところが多いのが実情だろう。

 

そんな時に信頼できるのがNGOなのだ。まずはそことの連携をもち、国際的に活動しているNGOと日本国内でよく関係をもっておくことが近道だ。日本のNGOのなかでも国際ネットワークをつくっている団体もあるので、そうしたところと日頃からコンタクトしておき、世界の動きを意見交換しておくこともCSR担当者として心がけてもらいたい。