サステナビリティ倶楽部レポート

[第49号] ミャンマー: 経済発展下でのガバナンス・ギャップ

2015年05月21日

 

●新興国特有の不条理

先週はミャンマーに出張し、現地を歩きそこでのビジネス関係者から最新の状況を伺ってきた。

ミャンマーはここ数年で大きく変化している国で、その発展に目を見張る。しかし未整備な社会基盤のうえに経済だけが急速に拡大しているため、環境破壊、労働者の処遇、地域住民との摩擦・・・・と、あらゆる社会問題が噴出する典型的な新興国の問題を抱える。CSRでもホットスポットとして注目の国だ。

 

仏教徒の国であるミャンマーには、街のあちこちに仏塔(パゴダ)や僧院が存在する。なかには文化財として観光スポットになるものも多いが、それらすべてが今でも普通にミャンマー人が拝む場としての寺院なのだ。

それだけ仏教の教えが人々の生活のなか根づいているので、人柄や雰囲気がとても落ち着く。話し方もやわらかで、声を荒げて主張するような場面はあまり見られず、日本人にはとっつきやすく感じる。

 

だがそんな古くからの良き習慣も、残念ながら消えつつある。街にはごみのポイ捨てや我先にと入り込む秩序のなさが目につく。政府関係者には汚職や賄賂の横行が当たり前で、市民からまったく信用されていない。軍事政権時代の軍関係者が今でも力をもっているケースも多く、何事も公正に事は運ばないのだ。

 

例えば、政府から正式な許可を得ていても、実際運用となって現地に赴いてみると、その土地の有力者が納得してくれずそこで右往左往する、といったことがよく起こる。こんな場合政府の許可はあまり力にならず、そこは政府もわかっていて「まぁ現地のいうように融通してやってください」といった具合なのだ。結局現場の意向の方を優先し、そのたびに修正して進めるしかない。

 

万事がこの調子で、不条理の連続を現地の常識として受け入れなければならない。日本では全く考えられないことが日常である現地では、スタッフもやりきれないのだ。こんなところに「ガバナンス・ギャップ」の現実がある。

 

●日本企業の”4L”

日本企業は地域に配慮し、従業員も大事にしているから、信頼されてうまくやっている・・・と思われがちだ。しかしそれも一律ではいかない。

以前の日本企業のアジア進出といえば生産拠点のシフトで、大規模な設備投資を伴って地域の雇用を創出するので地元密着がかなり重視されていた。ステークホルダーとは周辺住民が重点で、CSRもまとまった活動ができる。しかし現在では市場の開拓が重要であり、ステークホルダーを特定しづらい。ミャンマーでも製品販売やサービス展開が多く、なかなか地域活動まで視野に入れて事業をする余裕がないようだ。

 

日本企業は長期で経営を考えるといわれてきたが、これも崩れている。事業所を設けてこの先ずっと展開するつもりではあっても、駐在員の任期は3年程度で結局この期間での仕事という発想になる。この間に何かやってやろうという意欲よりも、3年間のお勤めをそつなくこなして本社の次のステップに戻ろう・・という雰囲気の方が多いようだ。変化の激しい新興国ビジネスでは、現地ならではのビジネス開拓のチャレンジ精神と迅速な判断でチャンスをつかむスピード感が必須なのだが。

 

そんな消極的な日本企業の態度を、ミャンマー人はよく見ている。

日本から視察に大勢訪れるが、日本企業はL: Look, Listen, Learn, then Leave (見て聞いて学ぶことは熱心だが、結局決断せずに離れていく)だ、と揶揄されていると聞いた。

今では中国や台湾、韓国関係者が続々と押し寄せ、即断即決していく状況なので、慎重に見過ぎる日本にがっかりしているようだった。もちろんあまりに簡単に事業展開に持っていこうとする中国等の企業への疑念や不信は大きい。ただ慎重に考えている間に、チャンスをこうした企業にとられていることが多々あることは事実だ。

 

●住民との摩擦が事業リスクに

在ミャンマーの日本企業の課題に、ティラワ経済特区の住民問題がある。

政府が力を入れている大規模工業団地のプロジェクトで、この開発にあたって移転を余儀なくされた住民の補償が十分でないことが大きな問題になっている。移転そのものは違法ではないが、事前の住民への説明と協議が十分でないことがこの問題を生んでしまった。

 

このような住民の生活に関わる人権問題は、国際社会では大きな関心を持たれている。開発に関わる事業主体には、相手国の政府ばかりでなく地元住民まで向き合い直接協議することが求められている。

 

開発プロジェクトに参加している企業の間では、政府主導の手順に従っているので問題意識が薄い。これまでの常識ではJICAや共同の事業開発会社の責任と片付けられるが、CSRの世界では人権侵害への加担であり、個別企業にも責任があることは歴然としている。既にNGOから特定企業名が指摘されており、このままスルーさせようとすれば世間から信頼を損ない重大な事業のリスクなる。

 

ここでの解決法は、個々の企業も直接住民と対話し対応を探っていくという「ステークホルダーとの恊働」アプローチをとることだ。現地に進出する企業は、仲介業者任せでなく末端の利害関係者の状況を自分たちの眼で確かめていくことだ。不正や不十分なところを知らないでいると、後々問題を抱え込むことになる。

 

●ジャパンプレミアムとしての見えるCSR活動

さて、日本企業のネガティブな面ばかり目についてしまったが、日本企業の評判が悪いというわけではない。むしろ問題が指摘されるのは中国等の企業のケースで、かなり荒っぽいことをやっている話をたくさん聞いた。

 

日本企業は環境や社会への取り組みをやっているにもかかわらず、それをあまり表に出さない。個々の企業でもやっていることは、地元に向けて積極的に説明した方がいい。日本人同士では当たり前の取り組みも、海外では評判が高いことが多いのだ。こうした姿勢を陰徳ではなく、ジャパンプレミアムとしてとらえ、競争力のひとつとして信頼構築に繋げることが大事だ。

 

さらに個別企業だけでなく、日本企業がまとまってプログラム展開し、地域との協力関係を深めていけば日本のイメージがさらにあがるだろう。商工会議所は、日本人同士の交流ばかりでなく地域と接する機会として、また消費者へのマーケティングの効果として、「見える」CSRをしていけば大きなプラスになるはずだ。