元東大総長の小宮山宏先生は、日本のことを「課題先進国」といっています。
日本がこれまでとってきた欧米キャッチアップ型は、「坂の上の雲」を追いかけていったいわば途上国モデル。いざ先進国になって雲の中に入ってみると、遠くから見えた雲が実は霧。つまり、先進国モデルは「霧の中」で問題だらけというわけです。
しかしこれを暗〜い表情でいうのではなく、とっても明るく前向きなんですね。課題がたくさんある日本こそ、その解決策をどんどん生み出せるのであり世界のモデルになれるのだ、と。
先が見えず閉塞感ばかり広がる日本のなかで、希望をもたせてくれます。これは私がいろいろなところで戦略的CSRを話す時、社会課題をリスクと見るのではなく事業創出の機会になる、ということと同じですからとても励みになりました。
小宮山先生は、総長時代に「サステナビリティ学連携研究機構」という新しい研究体制を打ち出しました。「サステナビリティ」を研究テーマとし、複数の大学をネットワークしてそれぞれの強みを連携しようという構想です。さらに国内にとどまらず、アジアに向けて積極的に発信、交流することを活動の軸にしているのです。今の時代にふさわしく新鮮だと思ってます。私が東大の講師をしているのも、この構想にもとづき東大がサステナビリティ学講座を新設したなかのひとつです。
そして今の日本に蔓延する課題について、「目指す日本のビジョン」を示しています。温暖化ガス25%削減はチャンスであり、エネルギービジネスの新規市場となるのです。25%の内訳も産業界ばかりに負担する話でなく、生活や輸送の部分で大きく削減できる。自ら省エネを徹底した「小宮山ハウス」を建て、どれくらい可能かを実践しているので説得力がありますね。
先生が掲げるもうひとつの課題は高齢化問題です。これからのシニア対策、介護に必要な対応をどうすべきかに頭を悩ますのではなく、元気な老人を増やすことにある、というポジティブ策。そしてこれを「プラチナ構想」と名づけるネーミングもいいですね。シルバーよりももっと高級感を出していますからね。
これも手をたたきたくなるすばらしいビジョンです。ただ、ここでもうひと工夫加えてほしいことが。今や社会問題は高齢化問題よりも、若年層の失業、格差問題です。これからの若者たちが、希望もなく漫然とやるせなく過ごしている。これは、若者たちにとって日本の将来、前途に希望や成長を感じさせるようなビジョンが描けていないからです。チャレンジして、それが報われるものが見当たらないのです。若い人たちが活き活きとして、キラリと光る「ダイヤモンド構想」が必要なのです。プラチナとダイヤモンドで、貴金属の最高峰に立てれば。
先生にお願いばかりではいけないですから、私たちも同様の発想でビジョン構想考えましょう。