マイケル・ポーターがCSV(共通価値の創造)を言い出したことで、価値創造につなげるCSRの考え方が広がっているようです。私も以前からこの方向を主張しているのでそれは歓迎なのですが、CSVばかり着目する傾向が一方にあり、これには忠告しないといけないです。
彼はCSVを論じる前に、最初は戦略的CSRを提示していました(2006年12月)。これがよくまとまっているので、私もこれまで認識あった基本的CSRに対応してこの価値創造タイプを戦略的CSRとして説明してきました。
しかし、2011年にはCSRを全面否定して、それに変わる戦略としてCSVを提唱したのです。
その転身は、アメリカならではの事情でしょう。アメリカでは、CSRは浸透していない。企業の社会活動とは企業市民活動(=社会貢献)や世間からの評判構築でしかない、と見られているのです。だからいくらポーターが「CSRに戦略的に取り組もう」といっても、”CSR”と呼ぶ限り経営に結びつけて扱ってくれなかったのでしょう。プライド高いポーターがそれで簡単に引き下がるわけでなく、そこで新たな用語を持ち出してCSR否定をしたに違いありません。
日本人はアメリカ信仰でポーター様々ですから、日米の経営姿勢の違いを考えずにそのまま礼賛する方が多い。このコンセプトに乗っかろう、と。経営コンサルティング業界にいた私にはそれがよくわかります。
そもそも日本の経営は、利益追求でなく社会に向いた企業姿勢なのです。CSRを創業時から理念におき経営の根幹としている会社を、何で否定するのでしょう。アメリカを手本とする時代なんぞとうに終わっていて、あちらが日本のような経営をし始めたということじゃないですか。
私もCSVを話題に持ち込みますが、それは戦略的CSRを事業に組み込む説明をする場合です。CSRはもっと包括的なもので、CSVはそのひとつとして位置づけるもの。
一例をあげましょうか。
CSVの例に、「調達方法を変えることで品質と収穫量を向上させる」とあります。ではこれによって、環境問題がひどくなったらどうなんでしょうか。
CSRはリスクと機会の両面でとらえ、それぞれで適切な取り組みをすることです。
くれぐれも誤解と誤用のないように・・・。